高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 溝の口

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抗うつ薬の併用療法のエビデンス

公開日 2022.8.29

はじめに

前項のコラムで記載しましたように、一般に治療抵抗性うつ病では増強療法が行われますが、抗うつ薬を併用する併用療法(combination therapy)が行われることもあります。

前項コラムの増強療法のエビデンスで記載しました2022年のNuñez NAらの報告におけるノリトリプチリン(ノリトレン)や2019年のStrawbridge Rら報告におけるトラゾドン(デジレル・レスリン)は抗うつ薬ですので、併用療法とも言えます。

最新のエビデンス

Henssler Jらは2022年抗うつ薬の併用療法と単剤での治療効果を比較した解析で、併用療法の有効性が高いことを報告しています。

更に解析結果として、併用に用いる抗うつ薬としてミルタザピン(リフレックス・レメロン)、ミアンセリン(テトラミド)、トラゾドン(デジレル・レスリン)の効果が高かったことを報告しています1)、(図1)。

図1 抗うつ薬の併用療法における併用薬の有効性の違い

併用療法の中でもSNRIのベンラファキシン(イフェクサーSR)とミルタザピン(リフレックス・レメロン)の併用が有名で、カリフォルニアロケット(California Rocket Fuel)と呼ばれています。

Blier PらはSSRIのフルオキセチン単剤(日本未承認)とベンラファキシン+ミルタザピンの効果を比較し、ベンラファキシン+ミルタザピンはフルオキセチン単剤の約2倍の寛解率であったことを報告しています2)、(図2)。

図2 ベンラファキシン+ミルタザピン(カリフォルニアロケット)の効果

2018年には国内の臨床試験により、うつ病に対するセルトラリンの用量及びミルタザピンの追加と変更の効果の研究結果が発表されました。

この研究ではセルトラリンは50mgと100mgで効果がかわらず、いずれの用量でも効果が不十分な場合、ミルタザピンの追加または変更が有効であり、追加または変更で寛解率が約10%上昇することが報告されています3)、(図3)。

図3 セルトラリンで反応不十分な場合のミルタザピンの追加と切り替えの効果

これらの結果から、第一選択薬が効果不十分な場合に併用療法を行う場合は、ミルタザピンが優れていると言えます。

他にミアンセリン(テトラミド)、トラゾドン(デジレル・レスリン)が選択肢となります。

組み合わせとして、ミルタザピンはどの薬剤にも併用効果がありますが、ミアンセリン(テトラミド)は抗セロトニン作用を有しているため、SSRIではなくSNRIと三環系抗うつ薬との併用でより効果が発揮されると考えられます。

Henssler Jの報告でもSSRIのフルオキセチンと三環系抗うつ薬のイミプラミンに対するミアンセリン(テトラミド)の併用効果では差がありました1)、(図4)。

図4 SSRI or 三環系抗うつ薬+ミアンセリン(テトラミド)の効果

フルオキセチンとイミプラミンの比較では効果に差がないことが示されており4)、5)、イミプラミンの効果がフルオキセチンより強いからという理由ではないと言えます。

三環系抗うつ薬とミアンセリン(テトラミド)の併用療法は入院治療などで古くから行われており、その効果はすでに十分知られているものでした。

過去には併用療法に対する効果に疑問が投げかける研究も報告され、話題になりました6)。

しかし、現在は増強療法のエビデンスとともに併用療法のエビデンスも集積しており、増強療法と同様に治療に活用されることが期待されます。

文献

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執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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