高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 溝の口

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パロキセチン(パキシル)、パロキセチン
徐放錠(パキシルCR)について

公開日 2022.11.22

作用・特徴

パロキセチン(パキシル)はイギリスのGSK(グラクソスミスクライン)社で開発が進められ、抗うつ剤として1990年に英国で承認されました。

日本では2000年に承認されました。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)として発売されましたが、実際にはセロトニンに選択的でなく、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用も有し、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)に近い薬剤です(図1)。

図1 パロキセチン・各SNRIのセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害率

(図中のレボミルナシプランは本邦未承認、デスベンラファキシンは治験中)

強いセロトニン再取り込み阻害作用に加え、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有し、発売後、うつ病に対し切れ味の良い抗うつ作用を発揮しました。

この現象からパキシルを内服して元気になることを「パキる」という言葉も生まれました。

一方でなかなかやめにくく、内服の中断に伴いめまい、吐き気、倦怠感、頭痛などの症状が生じる中断症候群の発生率が高いことが知られるようになりました1)。

シャンシャンするような錯感覚やビリビリする感覚異常が生じることもあり「シャンビリ」という造語も生まれました。

抗うつ薬の中断症候群には抗うつ薬の作用の強さ、薬の血中濃度の立ち上がりの速さ、作用時間の短さ(半減期の短さ)が関連します2)、3)。

パロキセチンはSSRIとして他剤と比較した場合、作用が強く、作用時間が短いことがわかっています4)、(図2)。

図2 パロキセチン・各SSRIの作用時間とセロトニン再取り込み阻害率の関係

このような中、腸内でゆっくりと薬剤成分を放出し消化管副作用を軽減し、血中濃度の急激な立ち上がりを抑えた徐放錠(パキシルCR:コントロールリリース)が2012年に承認されました。

パロキセチンCRの登場でパロキセチンによる治療で生じていた減薬のしにくさや中断症候群はいくぶん軽減しました。

効能・効果

パロキセチン(パキシル)は日本ではうつ病・うつ状態、パニック障害、強迫性障害、社交不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に対し、保険承認を得ています。

米国ではうつ病、パニック障害、強迫性障害、社交不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、全般性不安障害に承認を得ています。

パロキセチン徐放錠(パキシルCR)は日本ではうつ病・うつ状態に保険承認を得ています。

米国ではうつ病、パニック障害、社交不安障害、月経前不快気分障害(PMDD)に承認を得ています(図3)。

図3 パキシルとパキシルCRの日米保険適応

更年期障害のホットフラッシュ症状にパロキセチンが有効であることが報告されています5)、6)。

米国では2013年にパロキセチン7.5mgがホットフラッシュの治療薬として承認され、ブリスデル(Brisdelle®)の商品名で発売されています。

用法・用量

パロキセチン(パキシル)はうつ病・うつ状態では通常、成人には1日1回夕食後、パロキセチンとして20~40mgを経口投与する投与は1回10~20mgより開始し、原則として1 週ごとに10mg/日ずつ増量する。

なお、症状により1日40mgを超えない範囲で適宜増減するとなっています。

パロキセチン徐放錠(パキシルCR)では通常、成人には1日1回夕食後、初期用量としてパロキセチン12.5mgを経口投与し、その後1週間以上かけて1日用量として25mgに増量する。

なお、年齢、症状により1日50mgを超えない範囲で適宜増減するが、いずれも1日1回夕食後に投与することとし、増量は1週間以上の間隔をあけて1日用量として12.5mgずつ行うこととなっています。

パロキセチン徐放錠(パキシルCR)とパロキセチン(パキシル)の用量関係は以下となっています(図4)。

図4 パキシルCRとパキシルの用量関係

薬物動態

パロキセチン(パキシル)を1回服用した際は血液中の濃度は約5時間で最高濃度に達し、約15時間後に血液中の濃度は半分に下がります。

パロキセチン徐放錠(パキシルCR)を1回服用した際は血液中の濃度は約4時間後からゆるやかに上昇し、約8~10時間後に最高濃度に達し、ゆるやかに減少し、約13時間後に血液中の濃度は半分に下がります(図5)。

図5 パキシルとパキシルCRの1回内服時の血中濃度の推移

副作用

パロキセチン(パキシル)の承認時までの調査症例1,424例中975例(68.5%)に副作用発現を認めました。

主なものは、傾眠(24.5%)、悪心(20.4%)、浮動性めまい(12.3%)、頭痛(10.1%)、便秘(8.4%)、食欲減退(6.3%)、不眠症(4.7%)、ALT値上昇(3.8%)、下痢(3.2%)でした(図6)。

図6 パロキセチン(パキシル)の主な副作用

パロキセチン徐放錠(パキシルCR)の主な副作用は、傾眠(12.7%)、悪心(10.1%)、便秘(8.9%)、浮動性めまい(6.3%)、頭痛(5.1%)、射精障害(5.1%)、多汗症(5.1%)が報告されています(図7)。

図7 パロキセチン徐放錠(パキシルCR)の主な副作用

パロキセチン(パキシル)は抗うつ薬の中で性機能障害のリスクが高いことがわかっています7)、(図8)。

図8 パキシルと他の抗うつ薬を比較した際のパキシルの性機能障害のリスク

(図中のミルタザピン以外の薬剤は本邦未承認)

また、他の第2世代抗うつ薬と比較し、抗コリン作用を有することから、便秘の副作用が生じやすいです8)。

パロキセチン(パキシル)は肝臓のCYP2D6という薬物代謝酵素の働きを阻害するため、CYP2D6で代謝される抗精神病薬のペルフェナジン(ピーゼットシー・トリラホン)、リスペリドン(リスパダール)、三環系抗うつ薬のイミプラミン(トフラニール)、ADHD治療薬のアトモキセチン(ストラテラ)と併用すると、各薬剤の血中濃度を上昇させるため注意が必要となります。

また、乳がんの治療薬であるタモキシフェン(ノルバデックス)と併用するとタモキシフェンの作用が減弱するリスクがあり併用注意となっています。

一方でがんに伴う疲労への効果も報告されており、今後の更なる研究が待たれます9)。

文献

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執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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