高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 溝の口

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四環系抗うつ薬について
作用・特徴・比較

公開日 2023.3.27

開発経緯

ミアンセリン(テトラミド)は、1966年にオルガノン社(現MSD社)によって、抗ヒスタミン薬のシプロヘプタジン(ペリアクチン)とフェンベンザミンとを合成することにより、開発されました1)、(図1)。

図1 シプロヘプタジン、フェンベンザミン、ミアンセリンの化学構造式

シプロヘプタジン、フェンベンザミン、ミアンセリンの化学構造式

抗アレルギー薬として臨床試験が開始されましたが、喘息患者の中に抑うつ気分の改善がみられる現象を見られ、抗うつ薬として使用されるようになりました2)。

抗アレルギー薬として開発された経緯もあり、ミアンセリン(テトラミド)は第2世代抗アレルギー薬のエピナスチン(アレジオン)と構造が似ていることが知られています(図2)。

図2 ミアンセリン(テトラミド)とエピナスチン(アレジオン)の化学構造式

ミアンセリン(テトラミド)とエピナスチン(アレジオン)の化学構造式

エピナスチン(アレジオン)も抗ヒスタミン作用と抗セロトニン作用を有しています3)。

ミアンセリン(テトラミド)からオルガノン社(現MSD社)がセチプチリチン(テシプール)を合成し、日本の持田製薬株式会社が臨床開発を行いました。

オルガノン社(現MSD社)は後にミルタザピン(リフレックス・レメロン)の開発に成功します(図3)。

図3 オルガノン3兄弟

オルガノン3兄弟

1960年代に三環系抗うつ薬からより優れた効果を有し、副作用を軽減する目的でイミプラミン(トフラニール)の改良が重ねられました。

その中から、1964年にCIBA-GEIGY社(現ノバルティス社)によって、マプロチリン(ルジオミール)が開発されました2)、(図4)。

図4 イミプラミン(トフラニール)とマプロチリン(ルジオミール)の化学構造式

イミプラミン(トフラニール)とマプロチリン(ルジオミール)の化学構造式

作用機序

ミアンセリン(テトラミド)、セチプチリチン(テシプール)はシナプス前α2アドレナリン自己受容体を阻害し、ノルアドレナリンの放出を増加することにより、抗うつ作用を発揮すると考えられています4)、5)、(図5)。

図5 ミアンセリン(テトラミド)・セチプチリチン(テシプール)の作用機序

ミアンセリン(テトラミド)・セチプチリチン(テシプール)の作用機序

三環系抗うつ薬と同じく、シナプス間でのノルアドレナリン取り込み阻害作用も有しています6)。

マプロチリン(ルジオミール)はミアンセリン(テトラミド)、セチプチリチン(テシプール)と異なり、シナプス前α2アドレナリン自己受容体を阻害作用は有していません。

三環系抗うつ薬と同じく、シナプス間でのノルアドレナリン取り込み阻害作用を介して抗うつ作用を発揮すると考えられています7)。

三環系抗うつ薬との違いはノルアドレナリンのみを阻害し、セロトニン、ドパミンの取り込みはほぼ阻害しない点に違いがあります6)、7)。

比較

各四環系抗うつ薬の作用における比較ではミアンセリン(テトラミド)、セチプチリチン(テシプール)はおおむね類似するとされています5)、(図6)。

マプロチリンはノルアドレナリン取り込み阻害作用が強いです6)、(図6)。

図6 各四環系抗うつ薬のα2アドレナリン受容体阻害作用・ノルアドレナリン(NA)取り込み阻害作用

各四環系抗うつ薬のα2アドレナリン受容体阻害作用・ノルアドレナリン(NA)取り込み阻害作用

四環系抗うつ薬は副作用の口渇、便秘等に関わるムスカリンM受容体阻害作用は弱いものの、眠気等につながるヒスタミンH1受容体阻害作用とふらつき、血圧低下等につながるα1アドレナリン受容体阻害作用を有しています8)。

ミアンセリン(テトラミド)と比較し、マプロチリン(ルジオミール)の方が比較的いずれの阻害作用も弱いことがわかっています8)、(図7)。(セチプチリチンはミアンセリンと類似すると考えられています。)

図7 ミアンセリン・マプロチリンのヒスタミンH1・α1アドレナリン受容体阻害作用

ミアンセリン・マプロチリンのヒスタミンH1・α1アドレナリン受容体阻害作用

各四環系抗うつ薬の特徴

ミアンセリン(テトラミド)

ミアンセリン(テトラミド)はアミトリプチリン(トリプタノール)と同程度の抗うつ作用を有することが報告されています9)。

また抗うつ薬の併用療法として有効であることが報告されており10)、(図8)、以前から三環系抗うつ薬で改善が得られない際に併用療法として使用されてきました。

図8 抗うつ薬の併用療法における併用薬の有効性の違い

抗うつ薬の併用療法における併用薬の有効性の違い

不眠やせん妄にも有効であることが報告されており、不眠症治療やせん妄治療にも使用されます11)、12)。

一方、ヒスタミンH1受容体阻害作用とセロトニン5HT2C受容体阻害作用を介し、抗うつ薬の中でも眠気が強いことがわかっており13)、(図9)、用量調整を慎重に行います。

図9 抗うつ薬による眠気の比較

抗うつ薬による眠気の比較

抗セロトニン作用を有し、セロトニン不耐性やセロトニン症候群後の治療における薬剤選択の一つに挙げられます。

性機能障害が生じないため、他の抗うつ薬で性機能障害の副作用が生じ支障がある際には変更する薬剤の選択肢になります。

セチプチリチン(テシプール)

セチプチリチン(テシプール)はミアンセリン(テトラミド)から開発されたことから、作用や効果はミアンセリン(テトラミド)に類似するとされています5)。

ミアンセリン(テトラミド)と同じく、抗セロトニン作用を有するため14)、セロトニン不耐性やセロトニン症候群後の治療における薬剤選択の一つに挙げられます。

同じく、性機能障害が生じないため、他の抗うつ薬で性機能障害の副作用が生じ支障がある際には変更する薬剤の選択肢になります。

マプロチリン(ルジオミール)

マプロチリン(ルジオミール)はアミトリプチリン(トリプタノール)と比較し、効果発現が早いとされています15)。

ノルアドレナリンへの作用が強く、その作用は三環系抗うつ薬のノルトリプチリン(ノリトレン)、アモキサピン(アモキサン)に匹敵します6)、8)、(図10)。

図10 ノルアドレナリン(NA)取り込み阻害作用を有する抗うつ薬の強さの比較

ノルアドレナリン(NA)取り込み阻害作用を有する抗うつ薬の強さの比較

SSRI(フルオキセチン;日本未承認)との比較では、44歳未満の女性ではマプロチリン(ルジオミール)よりSSRI(フルオキセチン)の方が有効であったことが報告されています16)。

女性はSSRIに反応しやすく、男性は三環系抗うつ薬に反応しやすいという報告もあり17)、年齢や性別を考慮して選択されます。

脳内でのヒスタミンの伝達阻害はけいれん誘発のリスクが高くなることがわかっています18)。

また通常ノルアドレナリンはけいれんに抑制的に働くとされていますが19)、マプロチリンは高用量でノルアドレナリンの作用を増加し、けいれんが誘発されやすくなることが報告されています20)。

そのため、てんかん既往がある場合や高齢者ではより慎重な使用が必要となります。

強いノルアドレナリン阻害作用を介し、ミアンセリン(テトラミド)と同様に眠気が強くでることがあり13)、(図9)、用量調整を慎重に行います。

参考

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執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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