高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 溝の口

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抗うつ薬による躁転について

公開日 2021.10.5

躁転とは

躁転とは何らかのきっかけでうつ状態から躁状態に転じることを指します。

躁状態は正常範囲内の楽しい気分や機嫌がいいという範囲を超えて、感情面では多幸感がみられたり、怒りっぽさがみられることがあります。

行動面でおとなしかった人が早口でおしゃべりになったり、浪費したり、主張を強く訴えるようになったりします。

双極性障害の治療

双極性障害の治療で抗うつ薬を使用すると躁転することがあります。

2014年のViktorinらの研究では抗うつ薬の使用が躁転のリスクがあることを報告しています 1)。

この研究ではSSRI、SNRIなどの新規抗うつ薬の他に三環系・四環系抗うつ薬も含まれるものでした。

2016年のMcGirrらの研究ではSSRI、SNRIなどの新規抗うつ薬の躁転のリスクは短期的にはみられず、1年程使用すると躁転のリスクが生じると報告しています 2)。

実際には抗うつ薬が躁転するかしないかではなく、三環系抗うつ薬、SNRI、SSRIなどで区別して考えることが合理的です。抗うつ薬を個別に見ていくと三環系抗うつ薬とSNRIの躁転のリスクがSSRIより高いとされています 3)、4)。

抗うつ薬による躁転のメカニズム

抗うつ薬による躁転のメカニズムとして

①抗コリン作用 3)
②ノルアドレナリンの増加 4)

が想定されています。

①の抗コリン作用とは人体にはムスカリン性アセチルコリン受容体とニコチン性アセチルコリン受容体の2つがあり、主にムスカリン性アセチルコリン受容体が薬剤によって阻害されることを抗コリン作用と呼んでいます。

ムスカリン性アセチルコリン受容体は脳内や消化管に分布しており、消化管の抗コリン作用を利用した薬剤として腹痛や尿管結石の疝痛発作などに使用されるブスコパン(スコポラミン)が有名です。

一方、三環系抗うつ薬や抗精神病薬の抗コリン作用は便秘や尿が出てくい副作用につながってしまいます。

脳内での抗うつ薬の抗コリン作用が躁転の要因の一つと想定されており、抗コリン作用が強い抗うつ薬ほど躁転の度合いが高いことが示されています 3)、(図1)。

図1 抗うつ薬(三環系抗うつ薬・四環系抗うつ薬)の抗コリン作用と躁転の関係

抗うつ薬(三環系抗うつ薬・四環系抗うつ薬)の抗コリン作用と躁転の関係

ムスカリン性アセチルコリン受容体はM1からM5まで5タイプあることがわかっていますが中でもM2受容体の関与が強いとされています 5)。

またノルアドレナリンを増加させるSNRI〔デュロキセチン(サインバルタ)やベンラファキシン(イフェクサーSR)〕などはリスクが高いことがわかっており 4)、5)、ノルアドレナリンの増加がリスクと考えられています(図2)。

図2 ノルアドレナリンによる躁転仮説

ノルアドレナリンによる躁転仮説

セルトラリン(ジェイゾロフト)とベンラファキシン(イフェクサーSR)の躁転のリスクを比較して研究では、ベンラファキシン(イフェクサーSR)がより躁転のリスクが大きかったことが報告されています 5)、(図3)。

図3 躁転のリスク セルトラリン VS イフェクサーSR

躁転のリスク セルトラリン VS イフェクサーSR

アセチルコリンとカテコラミン(ノルアドレナリン、ドパミン)がバランスをとっていて、双極性障害ではバランスが崩れることによって躁転が生じることが想定されています 5)。

抗コリン作用やSNRIはアセチルコリン伝達の障害やノルアドレナリンの過剰な活性化をきたし、このバランスを崩すことになり、両者はシーソーのように関連した関係と考えられています(図4)。

図4 双極性障害におけるカテコラミンとアセチルコリンのバランス

双極性障害におけるカテコラミンとアセチルコリンのバランス

抗コリン作用のある薬が躁転するのならば抗コリン薬をうつ病に使用したら改善するのではないかとう疑問をもたれる方もいるかもしれません。

実のところ腹痛に使用するブスコパン(スコポラミン)をうつ病に使用したところ、症状が改善したとする研究報告があります 6)。実際の治療では副作用があるので使用することはありません。

また双極性障害うつ状態に使用されるクエチアピン(セロクエル)、クエチアピン徐放剤(ビプレッソ)はノルアドレナリンの増加作用があるのになぜ躁転しないのかという疑問をもたれる方もいるかもしれません。

クエチアピンの薬の効果を発揮する代謝産物のノルクエチアピンは、ノルアドレナリントランスポーターの親和性とアドレナリンα1受容体阻害が同程度でノルアドレナリンの増加による影響を一定に抑えることができることができます。

アクセルとブレーキがバランスよく備わっていると考えるとわかりやすいかもしれません。

また、抗コリン作用がありますが、より躁転に関わるとされるムスカリンM2の親和性が低いことも理由として想定されます。(図5)。

図5 クエチアピンが躁転しない理由

クエチアピンが躁転しない理由

うつ病の診断で抗うつ薬の治療が始まった後にかわった様子がみられたら、早めに通院中の病院、医師に相談されて下さい。

また、うつ病に限らず、SNRIのデュロキセチン(サインバルタ)は末梢神経疼痛治療薬として現在、糖尿病による末梢神経障害で内科から、腰痛などで整形外科からも処方されています。

トラムセットという痛み止めの薬もSNRI作用があるため、併用している場合はさらに躁転のリスクが高まります。

通院中の途中から同じくかわった様子がみられ始めたら早めに処方内容を確認し、病院、医師に相談して下さい。

躁転はなかなか当人には自覚しづらいものあります。

気分が良く、寝ないで仕事ができたり、アイデアがたくさん出る状態は本人には苦しい状態でなくむしろ快適と捉えられるからです。

家族や周囲の人の気づきや促しが助けになります。

文献

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執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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