アトモキセチン(先発医薬品名:ストラテラ)はノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害し、シナプス間のノルアドレナリンとドパミンを増加させ、神経の働きを強めることにより、不注意、多動・衝動性を改善するとされています(図1)。
ADHDでは脳の前頭前野における機能低下が不注意や注意の持続の困難を引き起こしているとされています 1)。
前頭前野の働きは主にドパミン、ノルアドレナリンによって活性化されます 2)。
前頭前野ではドパミン、ノルアドレナリンが相互に補完的に作用しており、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害しノルアドレナリンを増加させることにより、ドパミンを増加させることにもなり(図2)、その結果ドパミン、ノルアドレナリンの増加により前頭前野の機能が正常化され不注意などが改善されます 3)、4)。
先発医薬品のストラテラはカプセルで40mg、25mg、10mg、5mgがあります。小児用に液体もあります。ジェネリックでは錠剤が発売されています(図3)。
18歳未満では、通常、アトモキセチンとして1日0.5mg/ kgより開始し、その後1日0.8mg/kgとし、さらに1日1.2mg/kg まで増量した後、1日1.2~1.8mg/kgで維持する。
ただし、増量は1週間以上の間隔をあけて行うこととし、いずれの投与量においても1日2回に分けて経口投与する。
なお、症状により適宜増減するが、1日量は1.8mg/kg又は120mgのいずれか少ない量を超えないこととされています。
18歳以上では、通常アトモキセチンとして1日40mgより開始し、その後1日80mgまで増量した後、1日80~120mgで 維持する。
ただし、1日80mgまでの増量は1週間以上、その後の増量は2週間以上の間隔をあけて行うこととし、いずれの投与量においても1日1回又は1日2回に分けて経口投与する。
なお、症状により適宜増減するが、1日量は120mgを超えないこととされています。
内服後1時間程で最も高い血液中の濃度に達し、4時間ほどで半分の血液濃度に下がります。
臨床試験における副作用報告(成人)では悪心(46.9%)、食欲減退(20.9%)、傾眠(16.6%)、口喝(13.8%)、頭痛(10.5%)となっています(図4)。
他にも脈拍数の増加、血圧の上昇を引き起こすリスクが報告されています 5)。
そのため、もともと血圧が高い傾向にある場合は慎重な使用が必要となります。
薬をのむと一般的には肝臓で分解されて便または尿中に排泄されます。
肝臓には薬を分解(代謝)する酵素が多くあり、その代表選手がCYP2D6という酵素です。
アトモキセチンはCYP2D6で代謝されますが、このCYP2D6の働きを弱める薬(CYP2D6阻害薬)と同時に内服するとアトモキセチンの濃度が上昇し副作用が出やすくなるので飲み合わせに注意が必要です。
抗うつ薬ではパロキセチン(パキシル、パキシルCR)、フルボキサミン(ルボックス、デプロメール)がCYP2D6阻害薬ですので、併用する際は少量から開始したり、ゆっくり増量し副作用が生じていないか観察する必要があります。
デュロキセチン(サインバルタ)やイフェクサーSRなどのSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)と併用する際はノルアドレナリンへの効果が相乗作用で強まるために注意が必要です。
デュロキセチン(サインバルタ)やイフェクサーSRなどのSNRIはアトモキセチン同じノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有しており、ADHDへの効果も報告されています 6)、7)。
そのため、すでにうつ病でSNRIが開始になっていてうつ症状とADHDの症状もある場合などはアトモキセチンを追加するよりもSNRIを増量するか方が好ましいといえます。
また十分な量のSNRIで治療されているうつ病とADHDの併存ではアトモキセチンを加えるよりインチュニブを検討した方がよいと考えられます。
血圧が高い場合や双極性障害とADHDが併存している場合もアトモキセチンを使用すると症状が悪化する可能性があり 8)、インチュニブが選択肢になります。
チックはADHDとの併存率が高いことが知られていますが、コンサータはチックがある場合は使用禁忌となっています。
そのため、チック併存例ではアトモキセチンが選択肢となります。
また、アトモキセチンはADHDの不安を軽減する効果が報告されており、不安が強い場合などは選択肢となります 9)。
成人で40mgから初めて副作用で継続できなかった場合、少量から開始し、徐々に増量することで継続できることがあります。
眠気がでる場合は夕や寝る前に内服し、眠れなくなる場合は朝にずらすことで対処できます。
増量で副作用が出やすい場合は1日2回に分けることで対応できることがあります。
治験での効果用量(成人)は80~120mgですが、ADHDやADHDとASD(自閉スペクトラム症)の併存などの神経発達症では薬剤への過敏性を有している場合があり、少量が適量の場合もあります。