リスデキサンフェタミンメシル(医薬品名:ビバンセ)はd-アンフェタミンに L-リシンが結合したプロドラッグ(体内で代謝された後に活性体に変化し効果を発揮する薬)です。
活性体であるd-アンフェタミンがドパミントランスポーター及びノルアドレナリントランスポーターを阻害すること、並びに脳内におけるドパミン及びノルアドレナリンの遊離を促進することにより、シナプス間隙のドパミン及びノルアドレナリン濃度を増加させ、ADHDの不注意や多動性を改善すると考えられています(図1)。
剤形は20mgカプセルと30mgカプセルがあります(図2)。
現時点では小児期におけるADHDが保険適応となっています。
また、本剤の使用実態下における乱用・依存性に関する評価が行われるまでの間は、他のADHD治療薬が効果不十分な場合にのみ使用することとなっています。
18歳未満から使用を開始している場合は、治療上の有益性と危険性を考慮した上で18歳以降も慎重に使用を継続することが可能です。
通常、小児にはリスデキサンフェタミンメシル酸塩として30mgを1日1回朝経口投与する。
症状により、1日70mgを超えない範囲で適宜増減するが、増量は1週間以上の間隔をあけて1日用量として20mgを超えない範囲で行うこととなっています。
活性体であるd-アンフェタミンは1回の内服で3~5時間で最高血中濃度に達し、10時間ほどで半分の血中濃度に下がります。
毎日内服すると5日ほどで一定の濃度に維持されます(図3)。
プロドラッグ化することで急激な血中濃度の上昇を抑えられ、脳の線条体という部位でのドパミン放出の急激な高まりを抑えることができます。
線条体でのドパミンの急激な上昇は報酬系を刺激し多幸感をもたらし、依存・乱用の原因となるため、ゆるやかな上昇により依存性のリスクが軽減されると考えられています。
また約10時間血中濃度が持続することで日中の持続した効果にもつながります1)、2)。
承認時における安全性評価対象症例172例中、副作用は154例(89.5%)に認められ、主なものは、食欲減退136例(79.1%)、不眠78例(45.3%)、体重減少44例(25.6%)、頭痛31例(18.0%)、悪心19例(11.0%)が報告されています(図4)。
上記に該当する際は投与が禁止となっています。
上記に該当する場合は慎重な内服が必要です。
内服時間は不眠が生じやすいため、午後は避ける必要があります。
食欲減退が生じやすいため、成長にそった体重増加が抑制されてないか測定するなどの必要があります。
血圧上昇や脈拍が増加することがあり、定期的な測定が必要です 3)。
依存性のリスクがあるため必要に応じて休薬期間を設けることがあります。
ビバンセはメチルフェニデート(コンサータ)と異なり、脳の前頭前皮質という部位のドパミン、ノルアドレナリンの細胞外濃度を高めるだけでなく、セロトニンの濃度も高めます(図5)。
そのため、抗うつ薬のSSRI、SNRI、三環系抗うつ薬との併用ではセロトニンの作用が増強されセロトニン症候群が生じるリスクがあり注意が必要です。
コンサータはノルアドレナリントランスポーターに対し、ドパミントランスポーターに20倍近い阻害率を有しますが、ビバンセはいずれにも同じ程度の阻害率を有し、バランスがとれています(図6)。
また、コンサータと異なりドパミントランスポーターとノルアドレナリントランスポーターを阻害し、ドパミンとノルアドレナリンの濃度を高めるだけでなく、放出の促進の作用を有しています。
図5で示したようにセロトニンの増加作用があることも異なる点です。
セロトニンは衝動性に関わっており、セロトニンの減少はADHDの衝動性も高めるため 4)、5)、ビバンセのセロトニン増加作用は、コンサータと異なりセロトニンも介してADHDの衝動性の改善に関わっている可能性があり、今後の研究が待たれます。