高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 高津区 溝口

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月経前不快気分障害
(PMDD)について

症状

月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder:PMDD)は月経前に気分の強い落ち込みまたはイライラ感が生じ、日常生活・社会生活に支障をきたす疾患です。

落ち込みは単なる「気分の落ち込み」とは異なり、うつ病と同じ「抑うつ」と同等であり1)、抑うつ気分が中心となる場合もあれば、いらだちが強くみられる場合もあります。

また、抑うつ気分とイライラ感が混在し、苦痛をもたらす場合もあります。

うつ症状で勉強、家事ができなくなったり、登校、出勤困難になることもあります。

また、突発的・爆発的な怒りが生じ、家庭内、職場でトラブルになってしまうこともあります。

アメリカ精神医学会は診断基準の中で以下の診断基準を挙げています(一部簡略)。

A)ほとんどの月経周期において、月経開始前最終週に少なくとも5つの症状が認められ、月経開始数日以内に軽快し始め、月経終了後の週には最小限になるか消失する。
B)以下の症状のうち、1つまたはそれ以上が存在する。
C)さらに、以下の症状のうち1つ(またはそれ以上)が存在し、基準Bと合わせると、症状は5つ以上になる。

有病率

上記の診断基準を満たす女性の有病率は約2~6%とされていますが、完全には満たさないものの、PMDDの症状を有する女性の有病率は13~18%にのぼるとされています2)。

病因・病態

プロゲステロンはアロプレグナロンという脳内のGABA受容体に作用する神経ステロイドに代謝されます。

GABA受容体は抗不安等の抑制系として脳内で働いています。

月経周期に伴う黄体期のプロゲステロンの増加と急激な低下は、アロプレグナロンのバランス不全を介し、GABA受容体機能に影響を与え、不安等の症状が引き起こすことが示唆されています。

また、黄体期のエストロゲンの低下はセロトニン作用の低下とBDNF(brain-derived neurotrophic factor:脳神経由来神経成長因子 )に影響を与える可能性が示唆されています。

これらの機序を介し、PMDDの症状が生じると考えられています。3)、(図1、2)。

図1 月経のリズム

図2 PMDD(月経前不快気分障害)の発症機序

治療

PMDDでは薬物治療が有効であることが示されており、第一選択薬はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)とされています1)、2)。

SSRIを月経前の黄体期に内服する“間欠療法”が通常行われますが、状態により継続内服することもあります。

SSRIの中で以下の薬剤と用量の有効性が示されています2)。

第2選択として、経口避妊薬(低用量ピル)があります。

ただし、低用量ピルはPMDDの症状を改善するものの、抑うつ気分の改善効果は得られないことが報告されています3)。

日本ではPMDDに保険適応を有する低用量ピルはありませんが、米国ではヤーズ、ヤーズフレックス(ドロスピレノン・エチニルエストラジオール)が保険適応を取得しています。

他に漢方や西洋ハーブがあり、漢方では加味逍遥散の有効性が報告されています4)。

西洋ハーブでは西洋ニジンジンボク(Vitex agnus-castus)の有効性が報告されており、サプリメントとして販売されています5)。

鑑別診断

月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)は腹痛、頭痛などの身体症状と気分の落ち込み、イライラなどの精神症状を含めた月経前の多彩な症状群(Syndrome)をさしますが、PMDDはその中で抑うつ気分、いらだち等がより重篤な精神症状に焦点をあてた障害(Disorder)として区別されます。

PMSとPMDDが同時に存在することもあれば、どちらかが単体で存在することもあります。

鑑別診断と併存疾患の有無・コントロール状態の確認が重要とされています。

パニック障害などの不安障害を有する女性は月経前に症状が悪化あることがあり、鑑別診断が必要になります7)。

また、双極性障害の既往がある場合ではPMDDのリスクが高くなり、既存の双極性障害の感情の安定性がコントロールされていないとよりPMDDの症状が不良となります8)。

双極性障害以外の精神疾患の有無・治療状況の確認も同様に必要になります。

器質疾患の片頭痛、てんかんなども月経前に発作が生じることがあり、発作に伴う気分変調が生じることもあります。

これらが重なると例えば

となることがあります。

そのため、月経周期に伴い悪化する疾患を有する場合、治療により安定した状態を維持することが、PMDDの治療のために必要となります。

文献