高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 溝の口

高津心音メンタルクリニック 心療内科・精神科 川崎市 溝の口

デュロキセチン
(サインバルタ)について

公開日 2022.4.11

作用・特徴

デュロキセチン(先発医薬品名:サインバルタ)は脳内でセロトニンとノルアドレナリンの働きを強めることにより、気分の落ち込み、意欲低下、体の痛みなどを改善する効果があります。

神経のセロトニントランスポーターとノルアドレナリントランスポーターの再取り込みを阻害し、シナプス間隙のセロトニンとノルアドレナリンの濃度の上昇させることからSNRI(Serotonin and noradrenalin reuptake inhibitor ; セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)という抗うつ薬に分類されます(図1)。

図1:デュロキセチン(サインバルタ)の抗うつ作用

SNRIの中でも、セロトニンとノルアドレナリンへの作用が強いことと、両者へのバランスが良いことがデュロキセチンの特徴の一つです1)、2)、(図2)。

図2:デュロキセチン(サインバルタ)のセロトニン・ノンアドレナリントランスポータ阻害薬

またセロトニンとノルアドレナリンの働きを強めることに加え、脳の前頭前皮質という部位でドパミンの作用を強めることも分かっています3)、(図3)。

図3:デュロキセチン(サインバルタ)の前頭前皮質におけ細胞外モノアミン濃度増加作用

これらの作用により、うつ症状における、意欲低下、活力の低下、疲労感の改善にも有効です。そのため、仕事と活動においてSSRIと比較して有効とする解析も報告されています4)、(図4)。

図4:デュロキセチン(サインバルタ)VS SSRI 効果の比較

また、脊髄の痛みを抑える経路(脊髄下行性疼痛抑制経路)に作用し、鎮痛効果を発揮し、神経の痛みを和らげる効果があります(図5)。糖尿病性末梢神経障害、腰痛、線維筋痛症などの疼痛疾患への有効性が報告されています5)、6)、7)。

図5:デュロキセチン(サインバルタ)の神経疼痛抑制作用

効能・効果

日本での保険承認は

となっています。

全般性不安障害にも有効であり8)、米国では「うつ病」、「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」、「全般性不安障害」、「線維筋痛症」、「慢性筋骨格痛」となっています。

欧州では「うつ病」、「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」、「全般性不安障害」で保険適応を取得しています(図6)。

図6:デュロキセチン(サインバルタ)の各国の保険適応

用法・用量

「うつ病・うつ状態」、「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」では、通常、成人には1日1回朝食後、デュロキセチンとして40mgを経口投与する。

投与は1日20mgより開始し、1週間以上の間隔を空けて1日用量として20mgずつ増量する。なお、効果不十分な場合には、1日60mgまで増量することができるとなっています。

「線維筋痛症に伴う疼痛」、「慢性腰痛症に伴う疼痛」、「変形性関節症に伴う疼痛」では、通常、成人には1日1回朝食後、デュロキセチンとして60mgを経口投与する。

投与は1日20mgより開始し、1週間以上の間隔を空けて1日用量として20mgずつ増量するとなっています。

薬物動態

1日1回20㎎を単回で内服した際は、血液中の濃度は約7時間半で最高濃度に達し、約15時間で半分に下がります。

40㎎を単回で内服した際は、血液中の濃度は約7時間で最高濃度に達し、約11時間で半分に下がります(図7)。

図7:デュロキセチン(サインバルタ)1回内服時の血中濃度の推移

毎日内服すると、おおよそ1週間で一定の濃度に維持されます。

空腹で内服するか、食後で内服するかでいくらか代謝の影響があるもの、治療に影響を及ぼすほどではありません。

SSRIのPET研究ではおおよそ脳内のセロトニントランスポーターの約80%が占有されると効果用量とされています。

デュロキセチン(サインバルタ)は40㎎で脳内セロトニントランスポーターの約80%以上を占有することが報告されています9)。

ノルアドレナリントランスポーターは40㎎で約30%、60㎎で約40%占有されることが報告されています10)、(図8)。

図8:デュロキセチン(サインバルタ)の用量とトランスポーター占有率

ノルアドレナリン、ドパミンにも作用するので40㎎よりも少ない量で効果が得られることもあります。

剤形

剤形は先発医薬品のサインバルタは20mgカプセルと30㎎カプセルがあります。

後発医薬品(ジェネリック)のデュロキセチン(一般名)は同じく20mgカプセルと30㎎カプセルと20㎎錠と30㎎錠があります(図9)。

図9:デュロキセチン(サインバルタ)の剤形

副作用

うつ病・うつ状態を対象とした国内承認時における副作用発現率は、735例中663例(90.3%)で、主な副作用は悪心269例(36.6%)、傾眠228例(31%)、口渇168例(22.9%)、頭痛154例(21%)、便秘102例(13.9%)、下痢87例(11.8%)が報告されています(図10)。

図10:デュロキセチン(サインバルタ)の主な副作用

上記の様な副作用で20㎎から開始ができない場合は10㎎から開始することで、導入をスムーズに行えることが多いです。

同様に減薬、中止する際に20㎎で中止できないことがあり、その際は10㎎に下げて中止するか、さらに5㎎にまで下げてゆっくり中止することで中止にもっていくことが可能です。

デュロキセチン(サインバルタ)では副作用の出方に個人差が強く、内服して眠くなる場合もあれば、寝つきにくくなる場合もあります。

そのため、眠くなる場合は夕や眠前に内服とし、目がさえて眠れなくなる場合は朝に内服するなど調整することでうまくいくことが多いです。

SSRIと同様、嘔気が生じやすいですが、嘔気対策を十分にとることで対応可能です。

胃腸症状として嘔気の他にSSRIでは下痢が生じることがありますが、SNRIのデュロキセチン(サインバルタ)では下痢になることも便秘になることもあります。

少量から開始することで下痢には対応できることが多く、便秘は緩下剤の併用で対応できることが多いです。

注意点

高血圧症がある場合に使用するとまれに高血圧が悪化する場合があり、血圧へ注意が必要です。

前立腺肥大症などの疾患がある場合、ノルアドレナリンの作用により尿閉が生じるリスクがあり注意を要します。

SNRIは抗うつ薬の中でも躁転のリスクが高いため11)、デュロキセチン(サインバルタ)は双極性障害またはその素因がある場合には使用は控えることが望ましいと言えます。

特に疼痛管理ではトラムセット(トラマドールとアセトアミノフェンの合剤で現在多く使用される鎮痛剤)と併用される機会が多いですが、トラマドールもSNRI作用を有しており、併用で躁転のリスクはさらに高まるため、気分の変化への慎重な観察を要します。

まとめ

デュロキセチン(サインバルタ)は意欲低下・活力の低下に有効で、日本では特に勤労者の過労によるうつ病・うつ状態の治療に効果を発揮します。

疼痛にも効果があり、うつと痛みは相互に関連し、悪化する(うつ状態だとより痛みを感じやすく、痛みがあるとよりうつ状態が悪化し、悪循環が生じます)ためデュロキセチン(サインバルタ)は有効な選択肢となります。

ただし、その使用の際には躁の背景に注意が必要です。

文献

執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

医師紹介ページはこちらから