公開日 2022.8.26
はじめに
うつ病に対する抗うつ薬の治療では30%から50%で十分な反応が得られないことがあります1)。
そのような場合、他の抗うつ薬に切り替えるか、別の薬剤を組み合わせて抗うつ薬の効果を高める治療法が行われることがあります。
別の薬剤を組み合わせて効果を高める治療を増強療法(augmentation:オーグメンテイション)と呼んでいます。
2剤の抗うつ薬を十分量、必要期間使用しても効果が得られないうつ病を治療抵抗性うつ病(Treatment-resistant depression : TRD)と呼んでいます。
このような場合も薬物治療では増強療法(augmentation:オーグメンテイション)が一般に行われます。
最新のエビデンス
2022年のNuñez NAらの解析では増強療法に使用する薬剤として
- ノルトリプチリン(ノリトレン)
- 甲状腺ホルモンT3(トリヨードサイロニン)
- アリピプラゾール(エビリファイ)
- ブレクスピプラゾール(レキサルティ)
- クエチアピン(セロクエル、ビプレッソ)
- モダフィニル(モディオダール)
- 炭酸リチウム(リーマス)
- オランザピン(ジプレキサ)
- カリプラジン(日本未承認)
- リスデキサンフェタミン(ビバンセ)
が有効であったと報告しています。
これらの薬剤の間で忍容性の差はありませんでした(図2)。
図1 抗うつ薬の増強療法に使用される薬剤の有効性(Nuñez et al., 2022)
アリピプラゾール、クエチアピン、炭酸リチウムは以前から有効性が報告されており3)、(図2)、治療の現場でも多く使用されています。
図2 抗うつ薬の増強療法に使用される薬剤の有効性と忍容性の比較(Zhou et al., 2015)
ラモトリギン(ラミクタール)も有効性が報告されていますが4)、今回の研究で有効性が示されなかった理由として解析対象となった各研究の用量のばらつきがあったことが指摘されています2)。
また、2019年のStrawbridge Rらの解析では抗うつ薬のトラゾドンや近年、海外から多くの研究報告が寄せられているNMDA受容体拮抗薬のケタミンの有効性が報告されています5)、(図3)。
図3 抗うつ薬の増強療法に使用される薬剤の有効性(Strawbridge et al., 2019)
ケタミンのS-鏡像異性体であるエスケタミンは2019年に米国で認可され、治療抵抗性うつ病に使用されています。
増強療法のエビデンスでは上記で記載したZhou Xらの2015年の解析、Strawbridge Rらの2019年の解析が有名で、それに加え2022年Nuñez NAらの解析結果が発表され、より多くの知見が集積することになりました。
これらの知見が治療抵抗性うつ病につながり、よりよい治療が展開することが期待されます。
文献
- 1) Rafeyan R, et al. : Inadequate Response to Treatment in Major Depressive Disorder: Augmentation and Adjunctive Strategies. J Clin Psychiatry, 81 : OT19037BR3, 2020.
- 2) Nuñez NA, et al. : Augmentation strategies for treatment resistant major depression: A systematic review and network meta-analysis. J Affect Disord, 302 : 385-400, 2022.
- 3) Zhou X, et al. : Comparative efficacy, acceptability, and tolerability of augmentation agents in treatment-resistant depression: systematic review and network meta-analysis. J Clin Psychiatry, 76 : e487-98, 2015.
- 4) Goh KK, et al, : Lamotrigine augmentation in treatment-resistant unipolar depression: A comprehensive meta-analysis of efficacy and safety. J Psychopharmacol, 33 : 700-713, 2019.
- 5) Strawbridge R, et al. : Augmentation therapies for treatment-resistant depression: systematic review and meta-analysis. Br J Psychiatry, 214 : 42-51, 2019.
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