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ADHD(注意欠如・多動症)の薬
①アトモキセチン(ストラテラ)について

公開日 2021.11.2

作用

アトモキセチン(先発医薬品名:ストラテラ)はノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害し、シナプス間のノルアドレナリンとドパミンを増加させ、神経の働きを強めることにより、不注意、多動・衝動性を改善するとされています(図1)。

図1 前頭前野でのアトモキセチンの薬理作用

前頭前野でのアトモキセチンの薬理作用

ADHDでは脳の前頭前野における機能低下が不注意や注意の持続の困難を引き起こしているとされています 1)。

前頭前野の働きは主にドパミン、ノルアドレナリンによって活性化されます 2)。

前頭前野ではドパミン、ノルアドレナリンが相互に補完的に作用しており、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害しノルアドレナリンを増加させることにより、ドパミンを増加させることにもなり(図2)、その結果ドパミン、ノルアドレナリンの増加により前頭前野の機能が正常化され不注意などが改善されます 3)、4)。

図2 アトモキセチン投与後の前頭前野におけるドパミン、ノルアドレナリンの上昇

アトモキセチン投与後の前頭前野におけるドパミン、ノルアドレナリンの上昇

剤形

先発医薬品のストラテラはカプセルで40mg、25mg、10mg、5mgがあります。小児用に液体もあります。ジェネリックでは錠剤が発売されています(図3)。

図3 アトモキセチンの剤形

アトモキセチンの剤形

用法・用量

18歳未満では、通常、アトモキセチンとして1日0.5mg/ kgより開始し、その後1日0.8mg/kgとし、さらに1日1.2mg/kg まで増量した後、1日1.2~1.8mg/kgで維持する。

ただし、増量は1週間以上の間隔をあけて行うこととし、いずれの投与量においても1日2回に分けて経口投与する。

なお、症状により適宜増減するが、1日量は1.8mg/kg又は120mgのいずれか少ない量を超えないこととされています。

18歳以上では、通常アトモキセチンとして1日40mgより開始し、その後1日80mgまで増量した後、1日80~120mgで 維持する。

ただし、1日80mgまでの増量は1週間以上、その後の増量は2週間以上の間隔をあけて行うこととし、いずれの投与量においても1日1回又は1日2回に分けて経口投与する。

なお、症状により適宜増減するが、1日量は120mgを超えないこととされています。

薬物動態

内服後1時間程で最も高い血液中の濃度に達し、4時間ほどで半分の血液濃度に下がります。

図4 アトモキセチンの薬物動態(血中濃度)

アトモキセチンの薬物動態(血中濃度)

副作用

臨床試験における副作用報告(成人)では悪心(46.9%)、食欲減退(20.9%)、傾眠(16.6%)、口喝(13.8%)、頭痛(10.5%)となっています(図4)。

他にも脈拍数の増加、血圧の上昇を引き起こすリスクが報告されています 5)。

そのため、もともと血圧が高い傾向にある場合は慎重な使用が必要となります。

図5 アトモキセチン(ストラテラ)の副作用(成人)

アトモキセチン(ストラテラ)の副作用(成人)

注意点

薬をのむと一般的には肝臓で分解されて便または尿中に排泄されます。

肝臓には薬を分解(代謝)する酵素が多くあり、その代表選手がCYP2D6という酵素です。

アトモキセチンはCYP2D6で代謝されますが、このCYP2D6の働きを弱める薬(CYP2D6阻害薬)と同時に内服するとアトモキセチンの濃度が上昇し副作用が出やすくなるので飲み合わせに注意が必要です。

抗うつ薬ではパロキセチン(パキシル、パキシルCR)、フルボキサミン(ルボックス、デプロメール)がCYP2D6阻害薬ですので、併用する際は少量から開始したり、ゆっくり増量し副作用が生じていないか観察する必要があります。

デュロキセチン(サインバルタ)やイフェクサーSRなどのSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)と併用する際はノルアドレナリンへの効果が相乗作用で強まるために注意が必要です。

他のADHD治療薬との使いわけ

デュロキセチン(サインバルタ)やイフェクサーSRなどのSNRIはアトモキセチン同じノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有しており、ADHDへの効果も報告されています 6)、7)。

そのため、すでにうつ病でSNRIが開始になっていてうつ症状とADHDの症状もある場合などはアトモキセチンを追加するよりもSNRIを増量するか方が好ましいといえます。

また十分な量のSNRIで治療されているうつ病とADHDの併存ではアトモキセチンを加えるよりインチュニブを検討した方がよいと考えられます。

血圧が高い場合や双極性障害とADHDが併存している場合もアトモキセチンを使用すると症状が悪化する可能性があり 8)、インチュニブが選択肢になります。

チックはADHDとの併存率が高いことが知られていますが、コンサータはチックがある場合は使用禁忌となっています。

そのため、チック併存例ではアトモキセチンが選択肢となります。

また、アトモキセチンはADHDの不安を軽減する効果が報告されており、不安が強い場合などは選択肢となります 9)。

内服のポイント

成人で40mgから初めて副作用で継続できなかった場合、少量から開始し、徐々に増量することで継続できることがあります。

眠気がでる場合は夕や寝る前に内服し、眠れなくなる場合は朝にずらすことで対処できます。

増量で副作用が出やすい場合は1日2回に分けることで対応できることがあります。

治験での効果用量(成人)は80~120mgですが、ADHDやADHDとASD(自閉スペクトラム症)の併存などの神経発達症では薬剤への過敏性を有している場合があり、少量が適量の場合もあります。

ミス、不注意等で生活や仕事に支障をきたしている場合は、早めに心療内科・精神科に相談することをお勧めします。

文献

  • 1)Stahl SM. : The prefrontal cortex is out of tune in attention-deficit/hyperactivity disorder. J Clin Psychiatry, 70 : 950-1, 2009.
  • 2)Xing B, et al. : Norepinephrine versus dopamine and their interaction in modulating synaptic function in the prefrontal cortex. Brain Res, 1641 : 217-33, 2016.
  • 3)Del Campo N, et al. : The roles of dopamine and noradrenaline in the pathophysiology and treatment of attention-deficit/hyperactivity disorder. Biol Psychiatry, 69 : e145-57, 2011.
  • 4)Kowalczyk OS, et al. : Methylphenidate and atomoxetine normalise fronto-parietal underactivation during sustained attention in ADHD adolescents. Eur Neuropsychopharmacol, 29 : 1102-1116, 2019.
  • 5)Liang EF, et al. : The Effect of Methylphenidate and Atomoxetine on Heart Rate and Systolic Blood Pressure in Young People and Adults with Attention-Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD): Systematic Review, Meta-Analysis, and Meta-Regression. Int J Environ Res Public Health, 15 : 1789, 2018.
  • 6)Ghanizadeh A, et al. : Efficacy and adverse effects of venlafaxine in children and adolescents with ADHD: a systematic review of non-controlled and controlled trials. Rev Recent Clin Trials, 8 : 2-8, 2013.
  • 7)Bilodeau M, et al. : Duloxetine in adults with ADHD: a randomized, placebo-controlled pilot study. J Atten Disord, 18 : 169-75, 2014.
  • 8)Salvi V, et al. : ADHD and Bipolar Disorder in Adulthood: Clinical and Treatment Implications. Medicina (Kaunas), 57 : 466, 2021.
  • 9)Garnock-Jones KP, Keating GM. : Atomoxetine: a review of its use in attention-deficit hyperactivity disorder in children and adolescents. Paediatr Drugs, 11 : 203-26, 2009.

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執筆者:高津心音メンタルクリニック 院長 宮本浩司

  • 精神保健指定医
  • 日本精神神経学会認定専門医・指導医

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