高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 溝の口

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アカシジアの
症状・診断・治療について

公開日 2023.9.25

症状

アカシジアは主に抗精神病薬による副作用で「落ち着かずじっとしていられない」、「手足がムズムズする」といった症状が生じます1)、(図1)。

図1 アカシジアの症状

アカシジアの症状

体の内部で生じる不快感からイライラしたり、苦しさのあまり自殺に至ることもあります2)。

患者さんによっては「言葉にしようのない違和感」、「頭の先がツンと引っ張られる感」などと述べられることもあり、必ずしもソワソワ感やムズムズ感で表現されないこともあります。

また、薬により治療を受ける当事者が、アカシジアのことを知らない場合、アカシジアが生じた際に自分に何がおきているかわからないこともあり、診察で症状をうまく説明できないこともあります。

治療アドヒアランスに大きく影響することもわかっており3)、早期の介入が必要となります。

診断基準

アカシジアは急性アカシジアと遅発性アカシジアに分類されており、以下の診断基準が挙げられています4)。

急性アカシジア

主観的な落ち着きのなさが(神経遮断薬などの)医薬品投与を開始後または増量後、または錐体外路症状を治療する医薬品の減量後2~3週以内に発現する。

しばしば他覚的に観察される過剰な運動(例:そわそわした足の動き、片足ずつ体重をかけて体を揺らす、足踏み、じっと座っていたり立っていたりすることができない)を伴う。

遅発性アカシジア

ジストニアやアカシジアのような他の運動症を含む遅発性の症候群は、治療経過における遅発性の発現や、神経遮断薬の中止または減量に際して発現する。

数カ月~数年間の潜在的な症状の持続により鑑別される。

疫学

抗精神病薬を内服する当事者の、10人に1人以上は、アカシジアが生じることが報告されています5)。

第1抗精神病薬と比較し、第2世代抗精神病薬の方が、アカシジアのリスクが低いことがわかっています6)。

しかし、第2世代抗精神病薬も2剤併用すると、単剤治療に比べ、約3倍アカシジアのリスクが上昇することが報告されています7)。

また以下のリスク因子が挙げられています8)、(図2)。

図2 アカシジアのリスク因子

アカシジアのリスク因子

病態

抗精神病薬によるアカシジアは脳の線条体のドパミンD2受容体がブロックされることにより、ドパミン神経伝達が低下することにより、生じるとされています9)、10)。

腹側線条体の側坐核のドパミン機能低下により、側坐核から皮質や視床へ投射するドパミン伝達が低下することが関与するとされています9)。

また、ノルアドレナリンとドパミンの神経伝達のバランス不全が関与していることも示唆されています9)。

2023年のWuらの第2・第3世代抗精神病薬におけるアカシジアの発生リスクを比較した研究では以下の順に発生リスクが高い結果でした11)、(図3)。

図3 第2・第3世代抗精神病薬のアカシジア発生のリスク

第2・第3世代抗精神病薬のアカシジア発生のリスク

今回の解析では、クエチアピンとセルチンドール以外は、用量の増加とともにアカシジアの発生が増加することが示されました。

用量反応性は薬剤間で異なり、ルラシドン(ラツーダ)は特に用量の増加でアカシジア発生率が高まり、アリピプラゾール(エビリファイ)、リスパダール(リスペリドン)は一定の値をピークに横ばいになる結果でした(図4)。

図4 抗精神病薬とアカシジア発生の用量関係性

抗精神病薬とアカシジア発生の用量関係性

今回の解析結果とドパミンD2受容体阻害の強さの関係はおおむね相関する関係でした(図5)。

図5 ドパミンD2受容体阻害率とアカシジア発生の関係

ドパミンD2受容体阻害率とアカシジア発生の関係

抗うつ薬でもアカシジアが生じることがあります。

抗うつ薬によるアカシジアはセロトニン伝達の促進により、相対的にドパミン伝達の作用が低下し、生じるとされています9)。

Revetらは2020年に以下の図の順に抗うつ薬のアカシジアのリスク高いことを報告しています12)、(図6)。

図6 抗うつ薬のアカシジア発生のリスク

抗うつ薬のアカシジア発生のリスク

レストレスレッグス症候群だけでなく、アカシジアにおいても鉄欠乏がリスクになることが指摘されています13)。

鑑別診断

レストレスレッグス症候群

レストレスレッグス症候群ではアカシジアと似た下肢のムズムズ、不快感が生じますが、アカシジアと異なり、主に夕方・夜間に悪化します14)。

また、カフェイン、抗ヒスタミン薬はレストレスレッグス症候群を誘発・悪化させますが15)、アカシジアへの影響はない点も鑑別になります。

精神症状の悪化

アカシジアにより躁状態・ADHDの多動が引きこされたり、認知症当事者の徘徊が増えることがあり、それらを症状・状態の悪化と間違え増薬すると、さらに症状が悪化する危険性があり、鑑別を要します。

せん妄

夜間のアカシジア症状により、不穏、多動等が生じると夜間せん妄に似た症状となることがあり、鑑別を要します。

アクティベーションシンドローム

抗うつ薬開始後数日~数週以内に不安、焦燥感、イライラ、落ち着かなさ等が生じることがあり、アクティベーションシンドロームと呼ばれています。

アクティベーションシンドロームは、アカシジアを含めた症候群として捉える考え方もあり、鑑別というよりはアカシジアを含めた抗うつ薬全体の副作用への注意点となります。

治療

原因薬の減量、中止、変更が可能であれば優先されます。

薬物治療では以下が推奨されています10)、16)、17)。

βブロッカーのプロプラノロールは喘息がある場合、使用できません。

また、低血圧の場合も降圧作用があるため、慎重投与となります。

糖尿病がある場合、低血糖症状がわかりにくくなることがあり、注意を要します。

ベンゾジアゼピンはクロナゼパムの他にロラゼパム、ジアゼパムも有効であり、使用されることがあります18)。

ミルタザピンの他に、ミルタザピン同じくセロトニン5-HT2A受容体阻害作用を有するミアンセリン(医薬品名:テトラミド)トラゾドン(先発医薬品名:デジレル・レスリン)も有効であることが報告されています19)、20)。

シプロヘプタジン(先発医薬品名:ペリアクチン)、ビタミンB6の有効性も報告されています17)。

以下図に治療薬をまとめます(図7)。

図7 アカシジアの治療薬

アカシジアの治療薬

参考

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執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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