公開日 2024.1.4
作用・特徴
防已黄耆湯は色白で水ぶとりしやすい体質の方の肥満、多汗、むくみ、関節炎等の治療に用いられます(図1)。
図1 防已黄耆湯の作用と特徴
実際の治療における肥満症への治療効果が示唆されています1)。
また、関節炎の中でも膝関節症に用いられることが多く、その有用性が示唆されています2)。
使用目標(証)は、比較的体力が低下し色白で筋肉軟らかく、いわゆる水ぶとり体質の人が、全身倦怠感、多汗傾向を訴える場合に用います。
- 1)浮腫、尿量減少、関節(とくに膝関節)の腫脹・疼痛などを伴う場合
とされています。
図2 防已黄耆湯の東洋医学的使用目標
防已黄耆湯は腎臓の尿細管でPPARα(peroxisome proliferators-activated receptor-α:α型ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体)アゴニスト作用を介して脂質代謝を促進すること、血中TNF-α(tumor necrosis factor-α)値の上昇等を介し、肥満を改善することが示唆されています2)、3)、(図3)。
図3 防已黄耆湯の抗肥満のメカニズム
PPARは細胞内にある受容体でシグナル伝達を受け取り脂質の代謝を促進します。
TNF-αは炎症や免疫に関わる因子で脂質代謝にも関与します。
防已黄耆湯はIL-6、IL-8等の炎症性サイトカインも抑制するとされています5)。
変形性膝関節症では肥満がリスク因子となるだけでなく、その発症要因にIL-6、IL-8などの炎症性サイトカインによる軟骨の損傷が関与することがわかっています6)。
防已黄耆湯が膝関節炎に古くから使われ、現在も変形性膝関節症への効果が検証される背景には、抗肥満効果とともにIL-6、IL-8産生抑制等の抗炎症効果が関与することが考えられています。
防已黄耆湯は以下の生薬から構成されています(図4)。
- 黄耆
- 防已
- 蒼朮
- 大棗
- 甘草
- 生姜
図4 防已黄耆湯の構成生薬
剤型
医薬品のツムラの漢方薬(20番)は1包顆粒2.5gとなっています(図5)。
図5 防已黄耆湯の剤型(ツムラ医療用)
効能・効果
色白で筋肉軟らかく水ぶとりの体質で疲れやすく、汗が多く、小便不利で下肢に浮腫をきたし、膝関節の腫痛するものの次の諸症がみられます。
- 腎炎
- ネフローゼ
- 妊娠腎
- 陰嚢水腫
- 肥満症
- 関節炎
- 癰
- 癤
- 筋炎
- 浮腫
- 皮膚病
- 多汗症
- 月経不順
用法・用量[ツムラ防已黄耆湯(医療用)]
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に内服します。
なお、年齢、体重、症状により適宜増減します。
副作用
重大な副作用として以下が挙げられています。
- 間質性肺炎(頻度不明)
- 偽アルドステロン症(頻度不明)
- ミオパチー(頻度不明)
- 肝機能障害、黄疸(いずれも頻度不明)
頻度は不明ながら以下が挙げられています。
- 発疹
- 発赤
- そう痒
参考
- 1)田中 秀則, 島 仁. : 肥満症治療に対する防已黄耆湯の効果について. 漢方と最新治療, 28 : 205-209, 2019.
- 2)奥茂 敬恭, 他. : 変形性膝関節症に対する漢方治療の可能性-動物モデルを用いた防已黄耆湯による治療効果の検討-. 日本関節病学会誌, 40 : 258, 2021.
- 3)Kobayashi K, et al. : Boiogito Increases the Metabolism of Fatty Acids in Proximal Tubular Cells through Peroxisome Proliferators-Activated Receptor (PPAR) α Agonistic Activity, Biological and Pharmaceutical Bulletin, 39 : 143-147, 2016.
- 4)Yamakawa J, et al. : A Kampo Medicine, Boi-ogi-to, Inhibits Obesity in Ovariectomized Rats, Evid Based Complement . Alternat Med, 7:87-95, 2010.
- 5)田中 こなぎ. : 防已黄耆湯;変形性膝関節症. MB Orthop, 28:15-22, 2015.
- 6)Giorgino R, et al. : Knee Osteoarthritis: Epidemiology, Pathogenesis, and Mesenchymal Stem Cells: What Else Is New? An Update. Int J Mol Sci, 24 : 6405, 2023.
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