漢方薬には心身の不調の改善を促すとともに睡眠のサポートに有効な薬剤もあり、以下に代表的な睡眠に有効な漢方について4剤記載します。
酸棗仁湯は心身が疲れて眠れない時に使用されます(図1)。主薬である酸棗仁から命名されました。
図1
酸棗仁湯はドパミンの代謝促進作用とGABAの遊離促進を介して中枢神経の興奮を和らげる作用があります(図2)。
図2
悪夢にも有効で使用されることがあります 1)。また精神疾患の睡眠障害への有効性も報告されています 2)。
抑肝散はイライラがあり神経が高ぶって眠れない時などに使用されます(図3)。
興奮した「肝」を抑えるということから抑肝散と名がつきました。
もともとは小児のひきつけ、夜泣きに用いられその後、成人にも使用されるようになりました。
図3
抑肝散はセロトニン5-HT1A受容体部分刺激作用による抗不安作用とグルタミン酸の過剰な放出を抑制することによる興奮の抑制作用があります(図4)。
図4
イライラで眠れない不眠だけなく悪夢にも使用されます。またレム睡眠行動障害に有効であることも示されています3)。
帰脾湯・加味帰脾湯は不安があり眠れない時に使用されます(図5)。
消耗した「脾」の機能を元に返すという意味があります。
ここでいう「脾」は現代の解剖学でいう脾臓とは異なる概念で造血・止血作用、消化作用とともに“心の動きが宿る場所”の意味をもっています。
図5
加味帰脾湯はオキシトシンの分泌の増加を通して、抗ストレス作用をもたらすことが動物モデルで示されています 4)、(図6)。
図6
柴胡加竜骨牡蛎湯は比較的体力がある人、血圧が高めの人で不安、イライラがある際の不眠に使われます(図7)。
図7
柴胡加竜骨牡蛎湯はラットにストレスがかかった際に脳の前頭前野という部位のドパミンとセロトニンの細胞外濃度の減少を抑制することが報告されています。
この結果は柴胡加竜骨牡蛎湯が慢性的なストレスによるうつを改善する効果を持つ可能性を示唆しています 5)、(図8)。
図8
症状や体質によって処方薬を選択します。
上記の漢方薬以外にも睡眠をサポートする漢方薬があります。
睡眠薬の使用に抵抗がある場合や睡眠薬が増えることに抵抗がある場合は漢方を使用することも一つの方法です。