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パニック症・広場恐怖症に対する
薬物治療 最新の比較

公開日 2024.1.22

パニック症・広場恐怖症に対する薬剤の有効性の比較

2023年11月Guaianaらにより、広場恐怖症の併存の有無にかかわらないパニック症の薬剤の有効性と忍容性の比較、及び広場恐怖症に対する薬剤の有効性の比較の解析が報告されました1)、(図1、2)。

パニック症に対する薬剤の有効性では、以下の薬剤の順に有効性が示されました(図1)。

図1 パニック症に対する薬剤の有効性の比較

パニック症に対する薬剤の有効性の比較

忍容性ではアルプラゾラムとジアゼパムが優れている結果でした。

広場恐怖症に対する薬剤の有効性では、以下の薬剤の順に有効性が示されました(図2)(日本未承認薬を除く)。

図2 広場恐怖症に対する薬剤の有効性の比較

広場恐怖症に対する薬剤の有効性の比較

今回の結果では、パニック症に対してSSRIではパロキセチンの有効性が示されたものの、中断症候群のリスクや忍容性の点からは、2022年のChawlaらの報告も含め、引き続きエスシタロプラムやセルトラリンが第1選択になると考えられます。

パニック症に対する薬剤クラス間とSSRI間での有効性の比較

2022年1月Chawlaらによってパニック症に対する薬剤クラス間とSSRI間での有効性と忍容性の比較の解析が報告されています2)。

薬剤クラス間では、有効性と忍容性を考慮するとSSRIが優れていました(図3)。

有効性のみで見るとSSRI、TCA(三環系抗うつ薬)、BZD(ベンゾジアゼピン系抗不安薬;アルプラゾラム、ロラゼパムなど)が優れていました。

図3 パニック障害に対する薬物治療の比較 薬剤クラス間での比較

パニック障害に対する薬物治療の比較 薬剤クラス間での比較

ブスピロン(バスパー;日本未承認)は日本のタンドスピロン(セディール)にほぼ近い薬ですが、忍容性は良好(副作用は少ない)なものの、効果は劣る結果でした。

SSRI間での比較では有効性と忍容性を考慮すると、エスシタロプラム(レクサプロ)とセルトラリン(ジェイゾロフト)が優れている結果でした(図4)。

図4 パニック障害に対する薬物治療の比較 SSRI間での比較

パニック障害に対する薬物治療の比較 SSRI間での比較

パロキセチン(パキシル)、フルボキサミン(ルボックス・デプロメール)、フルオキセチン(プロザック;日本未承認)は有効性を有するものの、有害事象が高い(忍容性が低い)結果でした。

これらの結果から著者らは、従来の各ガイドラインで推奨されているようにパニック症ではSSRIが第1選択で、それに加え、SSRIの中ではエスシタロプラム(レクサプロ)とセルトラリン(ジェイゾロフト)が選択肢として好ましいという結果を報告しています。

SNRIのパニック症への効果

2021年のDuらのパニック症に対する抗うつ薬及びベンゾジアゼピン系抗不安薬の効果を比較した研究ではエスシタロプラム(レクサプロ)、ベンラファキシン(イフェクサーSR)、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が有効性と忍容性で優れていました3)、(図5)。

(この研究は上述のChawlaらの研究と比較し規模が小さいもので上述の研究結果を踏まえ参考程度になります。)

図5 パニック障害に対する薬物治療の比較 抗うつ薬・ベンゾジアゼピン間での比較

パニック障害に対する薬物治療の比較 抗うつ薬・ベンゾジアゼピン間での比較

今回のGuaianaら解析も踏まえ、ベンラファキシン(イフェクサーSR)は第2選択肢として検討されます。

また、イミプラミン(トフラニール)の有効性も示されており、SSRI、SNRIも副作用等で使用できない際は三環系抗うつ薬ではイミプラミン(トフラニール)の使用が検討されます。

イミプラミン(トフラニール)は従来からパニック障害への有効性が示されており4)、5)、SSRIが登場する前は、古くから使用されており、従来の治療と矛盾しない結果が示されたとも言えます。

今回のGuaianaら解析では、三環系抗うつ薬のクロミプラミン(アナフラニール)の有効性が示されており、クロミプラミンも選択肢として考慮されます。

抗うつ薬(SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬)で治療開始した際はベンゾジアゼピン系抗不安薬を併用、または頓用で使用することがあります。

また、抗うつ薬が使用できない時はベンゾジアゼピン系抗不安薬で治療を行うこともあります。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬では高力価(作用の強い)のアルプラゾラム(ソラナックス・コンスタン)などが頓用で使用されます。

同じく高力価で作用時間の長いクロナゼパム(ランドセン・リボトリール)、ロフラゼプ酸エチル(メイラックス)が併用、または単剤として一般的に使用されます。

参考

執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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