高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 溝の口

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コロナ後遺症(Long COVID)に
おけるブレインフォグについて

公開日 2022.9.5

はじめに

新型コロナウイルス感染症の第1波流行時は発熱とともに嗅覚障害が生じることが知られるようになりました。

その後、急性期の発熱が解熱後も嗅覚障害が後遺症として残る事例が報告されるようになりました。

その後の現在までの感染の流行で急性期の感染症状が改善後も様々な症状が後遺症として持続することがわかり、コロナ後遺症(Long COVID)と称されています。

WHO(世界保健機関)はコロナ後遺症(Long COVID)を「post COVID-19 condition」とし、定義として、「COVID-19の発症から通常3か月以内に症状があり、少なくとも2か月間持続し、代替診断では説明できない」と2021年10月6日発表しました。

英国立臨床評価研究所(NICE)は、コロナ後遺症(Long COVID)の定義として、「急性COVID-19後に持続または発現し、代替診断では説明できない兆候及び症状」としています。

そのうえで感染後4~12週間の進行中の「症候性COVID-19」と感染後12週間を超える「post-COVID-19 syndrome」に期間でわけています1)。

ブレインフォグとメンタルヘルス上の後遺症

コロナ後遺症(Long COVID)では胸痛、疲労、呼吸困難、咳・痰、認知障害・記憶障害、関節痛、睡眠障害、機能障害などが多いことがわかっています2)、(図1)。

図1 コロナ後遺症(Long COVID)の主な症状

認知障害・記憶障害はコロナ後遺症(Long COVID)におけるブレインフォグと呼ばれています(図2)。

図2 Long Term Complications of Covid-19

ブレインフォグは新型コロナウイルスの感染により神経の炎症が引き起こされ、肥満細胞が刺激され、ミクログリア(中枢神経の免疫細胞)が活性化し、メディエーターが放出され、視床下部が炎症を起こすことにより発症すると考えられています3)、(図3)。

図3 ブレインフォグ発症のメカニズム

症状

ブレインフォグにより、物覚えが悪くなったり、勉強や仕事の効率が落ちる、ミスや不注意が多くなるなどの症状が生じることがあります。

記憶そのものが障害されることもあります。

約20%の感染者が新型コロナウイルス感染の確定診断から12週間かそれ以上後にブレインフォグを発症している研究報告があり4)、日常生活や社会生活に長期的な影響を及ぼしていると想定されています。

またブレインフォグ以外にも不安、うつ病、PTSDが生じることも報告されています5)、6)、7)、(図4)。

不安、うつ病、PTSDは女性で発症の割合が高いことが報告されています8)、9)。

図4 コロナ後遺症(Long COVID)における精神神経症状の割合

うつ病と不安障害の患者さんではコロナ後遺症(Long COVID)の疲労が生じやすいことも報告されています10)。

治療

ブレインフォグに対しては、フラボノイドのルテオリンが有効であると報告されています11)。

またケルセチン、高用量のビタミンCも有効である可能性が示唆されています12)、13)。

高圧酸素療法で認知機能、注意、情報処理能力などが改善した報告もあります14)。

コロナ後遺症(Long COVID)全体の治療やコロナの予防に対する栄養療法では、ビタミンC、ルテオリン、ケルセチンの他にビタミンD、亜鉛、オメガ3脂肪酸、ラクトフェリン、ヘスペリジンの有効性が示唆されています15)。

ルテオリンはセロリ、ピーマン、ニンジン、ブロッコリー、パセリなどに多く含まれています16)。

また、尿酸値を下げる効果があるため17)、サプリメントとしても販売されています。

コロナ後遺症(Long COVID)の精神神経症状では炎症性サイトカインのインターロイキン-6(IL-6)が原因として大きく関与していることが想定されています18)。

ルテオリンはインターロイキン-6(IL-6)の活性を低下させることがわかっており、これらの機序を介して治療効果をもたらすと考えられます3)、19)。

おわりに

ブレインフォグは社会的な機能低下をもたらし、ブレインフォグの他、認知症、精神病性障害、てんかんのリスクは、新型コロナウイルス感染後2年後でも増加していると報告されています20)、(図5)。

図5 COVID-19感染6か月後及び2年後の神経学的・精神医学的リスク

(2年後の認知障害、認知症、精神病性障害のHR値は高齢者の値を、てんかんは小児の値を、不安障害、不眠、脳虚血発作、気分障害は成人の値を引用して作成)

そのため、ワクチンの積極的な接種、基本的感染対策による予防、すでにメンタルヘルス上の疾患で治療中の場合は、慎重な治療の継続が必要と言えます。

また、感染後に認知障害の症状が生じるようになった場合は、コロナ後遺症(Long COVID)によるブレインフォグの可能性があり早めの受診が推奨されます。

文献

執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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