高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 溝の口

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ブロナンセリン(ロナセン、
ロナセンテープ)について

公開日 2022.10.11

はじめに

ブロナンセリン(ロナセン)は大日本住友製薬(現住友ファーマ株式会社)により開発され、2008年に承認された非定型抗精神病薬で、統合失調症の陽性症状と陰性症状の改善に効果を発揮します1)。

2019には経皮吸収型の貼り付け薬であるテープ剤(ロナセンテープ)が承認されました。

作用・特徴

リスペリドン(リスパダール)などの一部の非定型抗精神病薬がセロトニンとドパミンの受容体を遮断し、効果を発揮することからSDA(serotonin-dopamine antagonist) と呼ばれるのに対し、ブロナンセリン(ロナセン)はよりドパミンの受容体遮断作用が強いことから、DSA(dopamine- serotonin antagonist)と呼ばれています(図1)。

図1 ブロナンセリンVSリスペリドン D2受容体+5-HT2A受容体遮断作用

ドパミンD2受容体遮断作用が強いだけでなく、ドパミンD3受容体遮断作用も強いことがわかっています2)、(図2)。

図2 各抗精神病薬のドパミンD3受容体遮断作用の強さ

ドパミンD3受容体は認知・学習、報酬系等に係ることがわかっており3)、ブロナンセリン(ロナセン)は強力なD3受容体遮断作用を介し、主に以下の作用を通じて認知機能に保護的に作用すると考えられています。

リスペリドン(リスパダール)との比較では、評価尺度(BACS-J、LASMI)において実行機能と日常生活の改善において、ブロナンセリン(ロナセン)が優れていたことが報告されています8)、(図3)。

図3 ブロナンセリンVSリスペリドン 認知機能改善(実行機能)

ブロナンセリン(ロナセン)は薬剤の脳内移行性に優れており、高プロラクチン血症のリスクが抑えられる特性があります。

B/P ratio(Brain/Plasma concentration ratio : 脳内/血漿濃度比)が高い程、高プロラクチン血症のリスクが低いことがわかっており9)、ブロナンセリン(ロナセン)はB/P ratioが高いことが報告されています10)、(図4)。

図4 各抗精神病薬のB/P ratio(脳内/血漿濃度比)

また、体重増加を含めた代謝にかかわるヒスタミンH1受容体やセロトニン5-HT2C受容体の遮断作用は弱いため11)、代謝への影響が低い利点もあります12)。

テープ剤では消化管や肝臓での代謝を受けず、直接血中へ薬剤が移行し、脳へ移行するため、血中濃度が安定する特徴を有します。

剤型

剤型には錠剤と散剤と経皮吸収型のテープがあり、錠剤は2mg錠、4mg錠、8mg錠があります(図5)。テープには20mg、30mg、40mgがあります(図6)。

図5 ロナセン(錠剤:先発医薬品)

図6 ロナセンテープ

効能・効果

現在の保険承認は統合失調症のみとなっています(2022年10月時点)。

用法・用量

錠剤・散剤では、通常、成人には1回4mg、1日2回食後経口投与より開始し、徐々に増量する。

維持量として1日8~16mgを2回に分けて食後経口投与する。

なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は24mgを超えないこと。

通常、小児には1回2mg、1日2回食後経口投与より開始し、徐々に増量する。

維持量として1日8~16mgを2回に分けて食後経口投与する。

なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は16mgを超えないこと。

小児において増量する場合には、1週間以上の間隔をあけて行うこととなっています。

テープでは、通常、成人には40mgを1日1回貼付するが、 患者の状態に応じて最大80mgを1日1回貼付することもできる。

なお、患者の状態により適宜増減するが、1日量は80mgを超えないこと。

本剤は、胸部、腹部、背部のいずれかに貼付し、24時間ごとに貼り替えるとなっています。

テープ40mgから80mgで内服8mgから24mgをカバーできることが報告されています13)、(図7)。

図7 ブロナンセリン(ロナセン)経口剤とテープの用量関係

薬物動態

空腹時に4mg錠を1回内服した際は約30分から3時間後に血液中の濃度は最高濃度に達し、約10時間後に血液中の濃度は半分に下がります(図8)。

図8 ブロナンセリン(ロナセン)を空腹時に1回内服した際の血中濃度の推移

食事後の内服と比較し、空腹時の内服は血液中の濃度が低くなるため、食事後の内服に内服時間を合わせる必要があります。(空腹時の内服の際は用量調整が必要となります。)(図9)

図9 ブロナンセリン(ロナセン)の食後と空腹時の内服での血中濃度の違い

肝臓の代謝酵素のCYP3A4で代謝されるためグレープフルーツジュースと内服すると血中濃度が高くなるため、避ける必要があります。

食後に2mgを1日2回毎日朝夕食後に内服した際は、約2時間後に血液中の濃度は最高濃度に達し、3相性に血液中の濃度は低下します。

約5日目までに一定の濃度に達します(図10)。

図10 ブロナンセリン(ロナセン)を毎日内服した際の血中濃度の推移

テープ40mgを1回貼り付けした際は約25時間後に血液中の濃度は最高濃度に達し、その後徐々に濃度は減少します(図11)。

図11 ロナセンテープ40mgを1回貼り付けした際の血中濃度の推移

毎日貼り付けると7日間でほぼ一定の濃度に達します(図12)。

図12 ロナセンテープ40mgを毎日貼り付けた際の血中濃度の推移

テープ剤では直接血中に薬剤が移行するので食時の影響はありません。

副作用

ブロナンセリン(ロナセン)の市販後調査の解析における、12週間投与後の安全性解析では、3130人のうち730人(23.3%)に有害事象が認められました。

主なものはアカシジア(4.3%)、高プロラクチン血症(2.8%)、錐体外路症状(2.4%)、眠気(1.5%)、不眠(1.2%)、振戦(1.2%)、唾液分泌過多(1.0%)でした14)、(図13)。

図13 ブロナンセリン(ロナセン)内服の主な副作用

ロナセンテープの安全性評価における副作用発現例は721例中447例(62.0%)で、主なものは貼り付け部位紅斑(11.7%)、アカシジア(10.4%)、貼り付け部位搔痒感(7.9%)、振戦(7.9%)、体重増加(6.1%)、不眠(4.4%)、高プロラクチン血症(4.3%)でした(図14)。

図14 ロナセンテープの主な副作用

ブロナンセリン(ロナセン)は認知機能に保護的で、高プロラクチン血症のリスクは低く、代謝への影響が少ない利点があります。

しかし、リスペリドン(リスパダール)、パリペリドン(インヴェガ)と比較し、アカシジア、錐体外路症状、焦燥・興奮のリスクは高いことが報告されています15)。

これらは便秘や口渇の原因となるムスカリンM1受容体や鎮静やふらつきの原因となるアドレナリンα1受容体の遮断作用が弱いためで、薬剤の良い特性の裏返しでもあります。(ムスカリンM1受容体遮断作用を有する薬剤はアカシジアや錐体外路症状生じにくいですが、便秘や口渇なども生じます。アドレナリンα1受容体遮断作用を有する薬剤は興奮を抑える作用がありますが、鎮静作用や血圧低下によりふらつき、転倒などが生じることがあります。)

おわりに

優れた薬剤プロフィールに加え、世界発の経皮吸収型のテープが開発されたことで、新たな治療の選択肢が増すとともに、再燃・再発予防への治療効果が期待されます。

一方でテープ剤では貼り付け部位の紅斑、かゆみの有害事象が5%を超えており、これらテープ剤の弱点に注意しながらの使用が必要と考えられます。

参考

執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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