高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 溝の口

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統合失調症に対する抗精神病薬の
有効性と副作用 近年の報告

公開日 2024.2.13

最新の統合失調症に対する抗精神病薬の有効性の比較

2024年1月抗精神病薬の有効性を比較した最新の解析結果が報告されました1)。

今回の解析は、ランダム化比較試験とリアルワールドデータを組み合わせ行われました。

リアルワールドデータによる解析では、対照薬をハロペリドール内服薬として、クロザピン、オランザピンLAI(日本未承認薬)、オランザピンが優れている結果でした(図1)。

図1 統合失調症に対する抗精神病薬の有効性の比較(リアルワールドデータ解析)

統合失調症に対する抗精神病薬の有効性の比較(リアルワールドデータ解析)

ランダム化比較試験とリアルワールドデータを組み合わせた結果では、オランザピンの有効性が最も優れていました。

統合失調症に対する抗精神病薬の長期有効性の比較

2023年6月、長期的な使用による抗精神病薬の有効性を比較した解析においても、オランザピンの有効性が高いことが報告されています2)、(図2)。

図2 統合失調症に対する抗精神病薬の長期有効性の比較

統合失調症に対する抗精神病薬の長期有効性の比較

治療抵抗性統合失調症に対する抗精神病薬の有効性の比較

2023年8月にDongらにより治療抵抗性統合失調症に対する抗精神病薬の有効性の比較の解析が報告されました3)、(図3)。

図3 治療抵抗性統合失調症に対する抗精神病薬の有効性の比較

治療抵抗性統合失調症に対する抗精神病薬の有効性の比較

結果はクロザピンとオランザピンが有効性において優れている結果でした。

著者らは、クロザピンの有害事象を考慮し、クロザピンの前にオランザピンを試す価値があると述べています。

統合失調症当事者の約20%が初期治療の抗精神病薬で症状が改善せず、約40%が治療薬に反応しないことが示されています4)、(図4)。

図4 統合失調症当事者における抗精神病薬に対する反応率の割合

統合失調症当事者における抗精神病薬に対する反応率の割合

そのため、第2選択の薬剤を慎重に検討する必要があります。

治療抵抗性統合失調症陰性症状に対する増強療法の薬剤の有効性の比較

2024年1月、治療抵抗性の統合失調症陰性症状に対する増強療法の薬剤の有効性の比較の解析が報告されました5)。

クロザピンを対照薬として、エスシタロプラム(先発医薬品名:レクサプロ)、抑肝散、グリシンが有効な結果でした(図5)。

図5 治療抵抗性統合失調症陰性症状に対する増強療法の薬剤の有効性の比較

治療抵抗性統合失調症陰性症状に対する増強療法の薬剤の有効性の比較

抗精神病薬+プラセボを対照薬とした比較では、上記薬剤に加え、ミアンセリン(医薬品名:テトラミド)の有効性も示されました。

エスシタロプラムが有効性を示した点について、著者らは、エスシタロプラムがNMDA受容体を介した伝達に関与すること、炎症性サイトカインのIL-6を減少させることが関連している可能性について考察で述べています。

第2・3世代抗精神病薬のアカシジア発生のリスク

2023年のWuらの第2・第3世代抗精神病薬におけるアカシジアの発生リスクを比較した解析では、以下の順に発生リスクが高い結果でした(日本未承認薬を除く)6)、(図6)。

図6 第2・3世代抗精神病薬のアカシジア発生のリスク

第2・3世代抗精神病薬のアカシジア発生のリスク

ただし、この研究ではルラシドンは20mgから240mgまでの研究が解析に含まれており、日本での治療用量(20~80mg)にこのリスク比がそのまま該当はしないと考えられます。

(米国では統合失調症に対し160mgまで承認されています。)

第2・3世代抗精神病薬の代謝副作用

2020年Pillingerらは、統合失調症当時者における抗精神病薬に対する代謝機能の比較を解析し報告しています8)。

クロザピン、オランザピンは体重増加のリスクが高く、ルラシドン、アリピプラゾールはリスクが低い結果でした(図7)。

図7 第2・3世代抗精神病薬の体重増加のリスク

第2・3世代抗精神病薬の体重増加のリスク

アカシジアのリスクと対策を考慮したアリピプラゾール、ルラシドンの選択、代謝のリスクを考慮したオランザピンの選択といった、それぞれの薬剤のプロフィールと個別の反応性に応じた薬剤選択が必要となります。

また、ルラシドンのアカシジアの発生とオランザピンの体重増加は用量反応性(内服量の増加に伴いリスクが増加)であり7)、9)、(図8)、治療効果における用量設定も副作用対策において重要と言えます。

図8 ルラシドン・オランザピンの用量反応性の有害事象の増加

ルラシドン・オランザピンの用量反応性の有害事象の増加

また、ブレクスピプラゾールでは、うつ病に対する増強療法における研究ではあるものの、2mgまで増量する際に、1mgから開始するよりも、0.5mgから開始するとアカシジアの発生頻度を減少させることができることが報告されています9)。

初回治療では緊急性が高く1mgから開始し、すみやかに2mgに増量せざるを得ないものの、アカシジアが生じやすい当事者においては、第2選択でブレクスピプラゾールに切り替える際は、0.5mgから導入するなどの工夫で、統合失調症治療においてもアカシジアリスクを減少できる可能性が示唆されます。

参考

執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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