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第3世代抗精神病薬について
作用・特徴・比較

公開日 2024.3.11

はじめに

ドパミンシグナル伝達を遮断せず、適度に調整することで、幻覚妄想や気分の浮き沈みを改善する作用を有する抗精神病薬を、第3世代抗精神病薬と分類しています。

現在、第3世代抗精神病薬はアリピプラゾール(医薬品名:エビリファイ)ブレクスピプラゾール(医薬品名:レキサルティ)、カリプラジン(医薬品名:ブレイラー)の3剤が諸外国で承認されています(カリプラジンは日本では未承認)。

本稿では、近年注目されている第3世代抗精神病薬について概説します。

開発経緯

抗精神病薬の作用は、1950年に抗アレルギー薬のプロメタジン(医薬品名:ヒベルナ・ピレチア)から開発された、クロルプロマジン(医薬品名:コントミン)に見出されました1)。

後にその作用は主に幻覚妄想に関与する、脳の中脳辺縁系という部位のドパミンD2受容体をブロックする(ドパミンD2受容体阻害:ドパミンD2受容体アンタゴニスト)ことでもたらされていると想定されるようになりました2)。

クロルプロマジン以降、フェノチアジン系、ブチロフェノン系といった種々の抗精神病薬が開発されました。

これらの治療薬は、多くの統合失調症当事者の治療に使用されるようになりました。

一方で、ドパミンD2受容体アンタゴニストは、薬剤性パーキンソニズムなどの錐体外路症状が問題となりました。

そのような中で、錐体外路症状を軽減するとともに、陰性症状への効果も有する、セロトニン5-HT2A受容体阻害(セロトニン5-HT2A受容体阻害アンタゴニスト)作用を併せ持つ治療薬(リスペリドン)が1984年に開発されました。

リスペリドン以降に複数のドパミンD2・セロトニン5-HT2A受容体阻害作用をもつ薬剤が開発され、それまで使用されていたクロルプロマジン、ハロペリドール等と区別して第2世代抗精神病薬と呼ばれるようになりました。

それに伴い、クロルプロマジン、ハロペリドール等は第1世代抗精神病薬と呼ばれるようになりました(図1)。

図1 第1世代抗精神病薬と第2世代抗精神病薬の模式図

第1世代抗精神病薬と第2世代抗精神病薬の模式図

第2世代抗精神病薬は統合失調症治療の主流としてその後、展開するようになります。

そのような中で、大塚製薬は1987年にドパミンD2受容体を完全には阻害せず、伝達を調整する新規抗精神病薬(アリピプラゾール)を開発しました。

アリピプラゾール(医薬品名:エビリファイ)は第2世代抗精神病薬の特徴である、錐体外路症状の軽減と陰性症状への効果に加え、代謝面への副作用を軽減させることに成功しました3)。

アリピプラゾールのドパミンD2/D3部分作動作用(ドパミンD2/D3パーシャルアゴニスト作用)は第3世代抗精神病薬と呼ばれるようになりました4)。

アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、カリプラジンいずれも化学構造式からは、フェニルピペラジン系向精神薬に分類されます5)、(図2)。

図2 第3世代抗精神病薬の化学構造式

第3世代抗精神病薬の化学構造式

作用機序

第1・2世代抗精神病薬は、ドパミン神経伝達が過剰でも低下でも伝達を完全に遮断してしまいます。

それに対し、第3世代抗精神病薬はドパミン神経伝達が過剰時には、正常伝達に下げ(戻し)、神経伝達が低下時には、抑制せずに刺激します(持ち上げます)。(図3、4)。

図3 第3世代抗精神病薬の薬理作用

第3世代抗精神病薬の薬理作用

図4 第3世代抗精神病薬のドパミンレベル安定化作用

第3世代抗精神病薬のドパミンレベル安定化作用

この特性により、従来の第2世代抗精神病薬が持つ錐体外路症状の軽減と陰性症状への効果に加え、代謝への副作用や高プロラクチン血症のリスクを軽減することになりました。

各第3世代抗精神病薬の作用と特徴

現在、諸外国では以下の第3世代抗精神病薬が承認されています。(日本ではカリプラジンは未承認。)

主たる作用部位であるドパミンD2・3、セロトニン5-HT1A・2A、α1アドレナリン受容体への親和性は各第3世代抗精神病薬で異なります6)、7)、(図5、6)。

図5 第3世代抗精神病薬の薬理プロファイル

第3世代抗精神病薬のドパミンレベル安定化作用

図6 第3世代抗精神病薬のD2・3、5-HT1A・2A、α1に対する親和性

第3世代抗精神病薬のドパミンレベル安定化作用

アリピプラゾールと比較し、ブレクスピプラゾールは、ドパミンを刺激する作用はよりマイルドで、セロトニンに対してはより強く作用します8)。

5-HT1Aにより強く作用することで抗うつ作用が、5-HT2Aにより強く作用することで錐体外路症状の軽減が得られると想定されています。

アリピプラゾール、ブレクスピプラゾールと比較し、カリプラジンはドパミンD3に強く作用します。

カリプラジンはドパミンD3/D2パーシャルアゴニストと呼ばれ、陽性症状とともに陰性症状、認知機能に良好な結果をもたらすことが示唆されています9)。

その一方でアカシジアのリスクは比較的高いことが指摘されています10)。

各第3世代抗精神病薬は米国では以下の疾患に対し承認を取得しています(図7)。

図7 第3世代抗精神病薬の米国における保険承認

第3世代抗精神病薬の米国における保険承認

アリピプラゾール

アリピプラゾールのドパミン伝達を過度に遮断することなく、バランスの良い伝達を維持する効果は、「ドパミン・システムスタビライザー:DSS」と呼ばれています。

アリピプラゾールは統合失調症、双極性障害躁状態に加え、うつ病強迫性障害に対する増強療法への有効性が示されています11)~14)。

また、チックASDの易刺激性、睡眠相後退症候群を含む概日リズム障害への有効性も示されており、これらの疾患・症状の治療目的で日本でも治療に用いられています15)~19)。

ブレクスピプラゾール

アリピプラゾール(エビリファイ)と比較し、ドパミンを刺激する作用はよりマイルドにし、セロトニンに対してはより強く作用します。

この作用から「セロトニン‐ドパミン アクティビティ モジュレーター:SDAM」と呼ばれています。

日本では統合失調症とうつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)に対し保険承認を得ています。

カリプラジン

カリプラジンは米国では統合失調症、双極性障害躁状態、うつ状態に保険承認を得ています。

うつ病に対する増強療法に有効性も報告されています13)。

副作用

第3世代抗精神病薬はアカシジアのリスクが比較的高いことが知られています10)、(図8)。

図8 第2・第3世代抗精神病薬のアカシジアのリスク

第2・第3世代抗精神病薬のアカシジアのリスク

また、病的賭博や強迫的な買い物などの衝動制御障害が生じるリスクに注意が必要とされています20)、(図9)。

図9 第3世代抗精神病薬の衝動制御障害のリスク

第3世代抗精神病薬の衝動制御障害のリスク

従来ドパミンD3に作用するパーキンソン病治療薬で同様の有害事象が認められることから、ドパミンD3への刺激が原因と考えられてきました。

しかし、近年、抗うつ作用・抗不安作用・認知機能改善作用に関与するとされるセロトニン5-HT1Aが関与している可能性が指摘されています21)。

実際に、各第3世代抗精神病薬の衝動制御障害のリスクとセロトニン5-HT1Aへの親和性の強さは近似関係を示します(図10)。

図10 第3世代抗精神病薬の衝動制御障害リスクと5-HT1A受容体親和性の関係

第3世代抗精神病薬の衝動制御障害リスクと5-HT1A受容体親和性の関係

優等生と思われていた“5-HT1A”はギャンブルや浪費といった裏の顔をもつ“two face”だったのかもしれません。

参考

執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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