高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 溝の口

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クロルプロマジン(コントミン)
について

公開日 2023.9.20

開発経緯

クロルプロマジン(コントミン)は、1950年にフランスのローヌ・プーラン社でフェノチアジン系の抗ヒスタミン薬のプロメタジン(ヒベルナ・ピレチア)から合成されました1)、(図1)。

図1 プロメタジン(ヒベルナ・ピレチア)とクロルプロマジン(コントミン)の化学構造式

プロメタジン(ヒベルナ・ピレチア)とクロルプロマジン(コントミン)の化学構造式

フランスの外科医であったHenri Laboritは外科手術中の麻酔と併用して、クロルプロマジン(コントミン)を使用したところ、患者が“とてもリラックスして穏やかになる”ことに気づきました。

このことから、精神安定剤としての可能性を見出しました。

その後、躁症状の改善がみられること、統合失調症の治療にも有効であることがわかり、精神安定剤・抗精神病薬として広がっていきました1)。

作用機序

クロルプロマジン(コントミン)はドパミンD2受容体、セロトニン5HT-2受容体、ヒスタミンH1受容体、ムスカリンM受容体、α1アドレナリン受容体阻害作用を有します2)、3)。

他の定型精神病薬と同じくドパミンD2受容体阻害を通じ、抗精神病作用をもたらすと考えられています。

クロルプロマジン(コントミン)はこれらの複数の受容体を阻害するだけでなく、シナプス間のセロトニンとノルアドレナリントランスポーターを阻害する作用を有しています4)。

これらの作用を介し、脳内でノルアドレナリン、ドパミンの合成、代謝を促進すると考えられています5)、6)。

抗うつ薬のSNRIが組み込まれているのに近いと言えます。

クエチアピン(セロクエル)の作用がクエチアピンのドパミンD2阻害作用による抗精神病作用とともに、主代謝産物のノルクエチアピンのノルアドレナリン再取り込み阻害作用と5-HT1A部分作動作用による抗うつ作用を有することに似ているとも言えます。

気分の高まりを抑える作用と気分のしずみを持ち上げる両方の作用を有するという点で、まさに“精神安定剤”といえる薬剤です。

剤型

コントミンは錠剤12.5mg錠、25mg錠、50mg錠、100mg錠があります(図2)。

また、注射液10mg、25mg、50mgがあります(図3)。

図2 クロルプロマジン(コントミン)の剤型(錠剤)

クロルプロマジン(コントミン)の剤型(錠剤)

図3 コントミン注射液のアンプルの剤型

コントミン注射液のアンプルの剤型

効能・効果

クロルプロマジン(コントミン)は以下で承認を得ています。

効能は多岐にわたり、ベンゾジアゼピン系抗不安薬で抑えられない一時的な不安の高まりも、少量のクロルプロマジンを頓用で使用することで効能が得られることがあります。

薬物動態

コントミン100mgを1回内服した際は約2~3時間後に血中濃度は最高濃度に達し、約30時間後に半減します。

筋肉内注射では15~30分で最高濃度に達する場合と4時間程かかる場合があることが報告されています。

約31時間後に半減します7)、(図4)。

図4 クロルプロマジン(コントミン)を内服・注射した際の血中濃度の推移

クロルプロマジン(コントミン)を内服・注射した際の血中濃度の推移

クロルプロマジンは肝臓でSの酸化、フェノチアジン環の水酸化、側鎖のNの脱メチル化、側鎖のN-オキシド、フェノチアジン環の開環などにより代謝されます。

主要代謝物のフェノチアジン核の水酸化体(7位)及びN-オキシド体などは活性代謝物(薬としての作用があります)として作用します。

スルホキシドとN-脱メチル体も薬理活性を有します(図5)。

図5 クロルプロマジンの主要代謝産物

クロルプロマジンの主要代謝物

代謝酵素はCYP2D6が関与します。

副作用

調査症例数249例中561件の副作用が認められ主にものは以下でした(図6)。

図6 クロルプロマジン(コントミン)の主な副作用

クロルプロマジン(コントミン)の主な副作用

クロルプロマジン(コントミン)とレボメプロマジン(レボトミン・ヒルナミン)との比較

レボメプロマジン(レボトミン・ヒルナミン)はクロルプロマジン(コントミン)開発後の1957年に、同じくフランスのローヌ・プーラン社(現サノフィ社)で開発されました。

クロルプロマジン(コントミン)と同じフェノチアジン系の精神安定剤です(図7)。

図7 クロルプロマジン(コントミン)とレボメプロマジン(レボトミン・ヒルナミン)の化学構造式

クロルプロマジン(コントミン)とレボメプロマジン(レボトミン・ヒルナミン)の化学構造式

両者の違いはいずれも、ドパミンD2受容体、セロトニン5HT-2受容体、ヒスタミンH1受容体、ムスカリンM受容体、α1アドレナリン受容体阻害作用を有しますが、ドパミンD2受容体阻害作用はレボメプロマジン(レボトミン・ヒルナミン)の方がやや強く、ヒスタミンH1受容体阻害作用はクロルプロマジン(コントミン)の方が強いことが報告されています2)、3)。

アドレナリンα1受容体阻害作用がクロルプロマジン(コントミン)よりレボメプロマジン(レボトミン・ヒルナミン)の方が強く、これによりレボメプロマジン(レボトミン・ヒルナミン)の方が鎮静作用が強いことがわかっています2)(図8)。

図8 クロルプロマジンとレボメプロマジンの各受容体阻害作用

クロルプロマジンとレボメプロマジンの各受容体阻害作用

また、クロルプロマジン(コントミン)と異なり、レボメプロマジン(レボトミン・ヒルナミン)はシナプス間のセロトニンとノルアドレナリントランスポーターを阻害する作用は有していません(図9)。

図9 クロルプロマジンとレボメプロマジンのセロトニン(5-HT)・ノルアドレナリン(NA)トランスポーター阻害

クロルプロマジンとレボメプロマジンのセロトニン(5-HT)・ノルアドレナリン(NA)トランスポーター阻害

その点でクロルプロマジン(コントミン)より静穏化作用がより強くなります。

レボメプロマジン(レボトミン・ヒルナミン)は以下で保険承認を得ています(図10)。

図10 クロルプロマジン(コントミン)とレボメプロマジン(レボトミン・ヒルナミン)の保険適応

クロルプロマジン(コントミン)とレボメプロマジン(レボトミン・ヒルナミン)の保険適応

おわりに

クロルプロマジン(コントミン)はハロペリドール(セレネース)と並び、定型抗精神病薬として、後に非定型抗精神病薬のリスペリドン(リスパダール)が登場するまで統合失調症の治療の標準薬・基準薬の役割を担いました。

そのため、現在も抗精神病薬の投与量をクロルプロマジン(コントミン)を基準に考えるCP換算(クロルプロマジン換算)という方法が用いられています。

CP換算ではクロルプロマジン100mgと等価である投与量と定義します8)、(図11)。

図11 抗精神病薬の等価換算

抗精神病薬の等価換算

参考

執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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