高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 溝の口

高津心音メンタルクリニック 心療内科・精神科 川崎市 溝の口

悪夢・悪夢障害の
症状・診断・治療について

公開日 2024.3.25

症状

悪夢障害は怖い夢を繰り返しみて、目が覚めた時に夢の内容を覚えており恐怖感を覚えます。

そして、また怖い夢をみるのではないかという不安と恐怖から、苦痛が生じます1)。

睡眠麻痺(金縛り)が伴うことがあります。

診断

米国精神医学会では以下のように診断基準をもうけています2)。

診断基準は上記のようにもうけられているものの、当事者が不快な夢で苦痛を感じているのであれば、悪夢・悪夢障害といってよいかと思います。

また、通常、悪夢による障がいでは、理由なく生じる悪夢(原発性の悪夢)の他に、トラウマ・PTSDに関連する悪夢が多く、一般的に原発性の悪夢とトラウマ関連性の悪夢の大きく2つに分けて捉えられています。

その他にレム睡眠行動障害(RBD)は悪夢を伴うことが多く、RBDの当事者はRBDが発症する以前から悪夢もみやすい傾向があります。

そのため、近年では、α-シヌクレノパチーの関連としての人生早期からの悪夢についての検討も行われています3)。

以上より、実際の診断・治療はあくまで、本人の苦痛が焦点となってきます。

疫学

有病率は約4~10%とされています4)。

男性より女性に多く生じると報告されています。

ただし、子ども時代に差が大きいとされています5)。

精神疾患では約39%に悪夢が生じることが報告されています6)。

各精神疾患・発達症における悪夢の頻度は以下の図が報告されています6)~8)、(図1)。

図1 精神疾患・発達症における悪夢の頻度

精神疾患・発達症における悪夢の頻度

PTSDで特に頻度が高く、特に逆境的小児期体験、小児期の被虐待体験との関連が指摘されています9)。

身体疾患では、片頭痛、喘息、気管支炎などが悪夢を生じることがあるとされています4)。

薬剤では以下等がリスクとなることが報告されています4)、10)~13)。

栄養素ではビタミンD欠乏が不眠・悪夢に関与することがあると報告されています14)、15)。

病態

不安や恐怖といった情動に関与する扁桃体という部位の活動が、夢に関与しているとされています16)。

脳内では覚醒系の神経伝達物質と抑制系の神経伝達物質がバランスをとり、日中は覚醒系が優位となり、夜間は抑制系が優位となりヒトは睡眠状態となります。

覚醒系にはドパミン、ヒスタミン、オレキシン等があります。

抑制系にはGABA、アデノシン等があります。

自然な睡眠では、日中にアデノシンの量が蓄積し、夜になるとアデノシン伝達の促進をおこり、抑制系にかたむき睡眠に入ります。

アデノシンの量は徐々に明け方にかけ減衰します17)、(図2)。

図2 アデノシンの量の睡眠中の推移

アデノシンの量の睡眠中の推移

アデノシンはアデノシン受容体に結合し、シグナル伝達が促進すると、睡眠促進の他に、不安を軽減する作用を有しています。

そのため、受容体がブロックされ、シグナル伝達が遮断されると不安、恐怖が生じやすくなります18)。

カフェインは薬としての作用はアデノシン受容体拮抗薬です。

両者は一部に類似した構造をとります19)、(図3)。

図3 アデノシンとカフェインの化学構造式

アデノシンとカフェインの化学構造式

そのため、抑制系のアデノシンの伝達をブロックすると、眠気が改善する一方で、パニック症や不安障害の患者さんを含め、健常の人でも、不安が生じることがあります20)、21)。

扁桃体のアデノシンA2A受容体は恐怖記憶を制御しており、ストレスやトラウマで扁桃体が活性化することが報告されています22)、23)。

うつ状態や不安、寝不足ではアデノシンA2A受容体がアップレギュレーションすることがわかっています18)、24)。

この状態で、夜間にアデノシンの量が減っていくと、アデノシン受容体による伝達が十分でなくなり、さながらカフェインで受容体を遮断している時に近くなり、不安・恐怖が惹起され悪夢が生じます(図4)。

図4 悪夢におけるアデノシンの関与

悪夢におけるアデノシンの関与

ASD当事者では、悪夢が多いですが、アデノシンシグナル伝達が低下していることが報告されています25)。

治療

薬物治療では主に以下が用いられます26)~30)。

(いわゆるエビデンスでは、降圧薬のプラゾシンが以前から最も有効とされていますが、日本の治療の現状に即して上記としています。)

PTSD、トラウマが原因の悪夢では以下の心理療法等が有効とされています26)、31)。

短期的なイメージ・リスクリプトによる介入の有効性も報告されています32)。

参考

執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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