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セロトニン症候群の
症状・診断・治療について

公開日 2023.10.30

症状

抗うつ薬をはじめとした、セロトニンに作用する薬剤を内服中に、精神症状、神経・筋症状、自律神経症状が生じる副作用をセロトニン症候群と呼びます1)。

精神症状には主に以下の症状が生じます1)、2)。

  • 不安
  • 焦燥感
  • 混乱
  • イライラ
  • 興奮

神経・筋症状には主に以下の症状が生じます1)、2)。

  • 震え(振戦)
  • 筋肉のぴくつき(ミオクローヌス)
  • 腱反射の亢進

自律神経症状には主に以下の症状が生じます1)、2)。

  • 発汗
  • 発熱
  • 下痢
  • 頻脈

代表的な症状として振戦・ミオクローヌス、発熱、発汗、不安・焦燥感がみられます2)、(図1)。

図1 セロトニン症候群の代表的な症状

セロトニン症候群の代表的な症状

診断

広く使用されている診断基準に以下の3つの診断基準があります。

Sternbachの診断基準

  • A:セロトニン作動薬の追加投与や投薬の増加と一致して次の症状の少なくとも3つを認める
    1) 精神症状の変化(錯乱、軽躁状態)、2) 興奮、3) ミオクローヌス、4) 反射亢進、5) 発汗、6) 悪寒、7) 振戦、8) 下痢、9) 協調運動障害、10) 発熱
  • B:他の疾患(たとえば感染、代謝疾患、物質乱用やその離脱)が否定されること
  • C:上に挙げた臨床症状の出現前に抗精神病薬が投与されたり、その用量が増量されていないこと

図2 Hunter Serotonin Toxicity Criteria

Hunter Serotonin Toxicity Criteria

Rudomskiらの診断基準

  • 1:セロトニン作動薬を治療に使用(あるいは増量)していることに加えて、下記の少なくとも4つの主症状、あるいは3つの主症状と2つの副症状を有していること
    精神(認知、行動)症状
    主症状:錯乱、気分高揚、昏睡または半昏睡
    副症状:興奮と神経過敏、不眠
    自律神経症状
    主症状:発熱、発汗
    副症状:頻脈、頻呼吸と呼吸困難、下痢、低血圧または高血圧
    神経学的症状
    主症状:ミオクローヌス、振戦、悪寒、筋強剛、神経反射亢進
    副症状:協調運動障害、散瞳、アカシジア
  • 2:これらの症状は、患者がセロトニン作動薬を服用する前に発症した精神疾患あるいはその悪化に該当するものでない
  • 3:感染、代謝、内分泌、あるいは中毒因は除外される
  • 4:発症前に抗精神病薬が投与されていないこと、または増量されていないこと

鑑別では、悪性症候群、甲状腺クリーゼ、脳炎、中枢性抗コリン薬中毒、抗うつ薬中断症候群、アルコール離脱症候群、悪性高熱症等が挙げられますが、悪性症候群との鑑別が最も問題となります1)。

悪性症候群では血液検査で白血球増加、CK値上昇、AST・ALT値上昇の頻度が多いものの、セロトニン症候群では頻度が少ない傾向にあります3)。

また、身体所見ではセロトニン症候群ではミオクローヌス、腱反射亢進が生じやすいですが、悪性症候群での頻度はまれです3)、(図3)。

図3 セロトニン症候群と悪性症候群の鑑別

セロトニン症候群と悪性症候群の鑑別

疫学

Nguyenらは、米国の保険データを元にした解析で、セロトニンに作用する薬を処方された患者の0.09~0.23%にセロトニン症候群が発生したと報告しています4)。

フランスの医薬品安全監視データを元にした解析では、薬剤クラスでは以下の順に発症が多い割合でした2)、(図4)。

図4 セロトニン症候群を発症した薬剤クラスの割合

個々の薬剤では以下の順に発症が多い割合でした2)、(図5)。

図5 セロトニン症候群を発症した薬剤の割合

セロトニン症候群を発症した薬剤の割合

トラマドールはSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害)作用を有しており5)、(図6)、セロトニン再取り込み阻害作用によりセロトニン症候群が発症するリスクがあります6)。

図6 抗うつ薬のSNRIとトラマドールのSNRI作用の比較

抗うつ薬のSNRIとトラマドールのSNRI作用の比較

抗菌剤のリネゾリド(先発医薬品名:ザイボックス)は、MAO-A(モノアミンオキシダーゼA)、MAO-B(モノアミンオキシダーゼB)阻害作用を有しており7)、MAO阻害作用がセロトニン症候群の発症に関与するとされています8)。

炭酸リチウムはセロトニン合成、放出を増加させ9)、10)、シナプス後セロトニン受容体を活性化させることが、セロトニン症候群の発症に関与していると示唆されています11)。

リスク因子として以下が挙げられています2)。

  • セロトニン作動薬の2剤以上の併用
  • セロトニン作動薬の高用量の使用
  • SSRIとトラマドールの併用
  • チトクロームP450(CYP450)の阻害

2剤以上の併用では以下の順に発生率が高かったことが報告されています2)、(図7)。

  • SSRIとオピオイド
  • SSRIとMAO阻害剤
  • SSRIと三環系抗うつ薬
  • 三環系抗うつ薬と炭酸リチウム
  • MAO阻害剤とオピオイド
  • SSRIとアンフェタミン
  • SSRIと炭酸リチウム

図7 セロトニン症候群を発症した2剤の薬剤の組み合わせの割合

セロトニン症候群を発症した2剤の薬剤の組み合わせの割合

SSRIとトラマドールの併用では、特にパロキセチンとトラマドールの併用がリスクが高いことが報告されています2)。

パロキセチンがトラマドールを代謝するCYP2D6の働きを阻害するため、よりリスクが高くなることが要因となります2)。

WHOのデータを元にした解析では、オピオイドと他剤との相互作用によるセロトニン症候群の発症割合はトラマドールが最も高い割合でした12)、(図8)。

図8 各オピオイドと他剤との相互作用によるセロトニン症候群の発症割合

各オピオイドと他剤との相互作用によるセロトニン症候群の発症割合

咳止め薬のデキストロメトルファン(先発医薬品名:メジコン)もSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害)作用があり、抗うつ薬以外の薬剤としては比較的強いセロトニン再取り込み阻害作用を有しています13)、(図9)。

図9 抗うつ薬のSSRIと咳止め薬のデキストロメトルファン(メジコン)のSNRI作用の比較

抗うつ薬のSSRIと咳止め薬のデキストロメトルファン(メジコン)のSNRI作用の比較

そのため、SSRIとの併用でセロトニン症候群が発症するリスクがあります12)。

抗菌薬のリネゾリドは、SSRIのエスシタロプラム及び、癌疼痛治療薬のメサドン(医薬品名:メサペイン)と併用した際にセロトニン症候群の発症リスクが高くなることが報告されています14)、(図10)。

図10 リネゾリドとの相互作用によりセロトニン症候群を発症するリスクのある薬剤

リネゾリドとの相互作用によりセロトニン症候群を発症するリスクのある薬剤

片頭痛治療薬のトリプタン製剤はセロトニンの受容体に作用(セロトニン5-HT1B・1D受容体作動薬)することから、SSRIとの併用でセロトニン症候群の発症のリスクがあるとされていますが、Orlovaらは、米国のデータを元にした解析で、トリプタンとSSRIの併用によるセロトニン症候群発症のリスクは低いことを報告しています15)、(図11)。

図11 トリプタンとSSRIを併用した際のセロトニン症候群発症のリスク

トリプタンとSSRIを併用した際のセロトニン症候群発症のリスク

病態

セロトニン症候群はセロトニン5-HT1A受容体の過剰な活性化を中心に、セロトニン5-HT2A受容体の活性化及び阻害の両者が関与し発症すると考えられています16)、17)、(図12)。

図12 セロトニン症候群の発症機序

セロトニン症候群の発症機序

治療

治療はまず原因の薬剤の中止、補液、体温冷却を行います。

症状が中等度以上の場合、抗セロトニン作用を有するシプロヘプタジン(先発医薬品名:ペリアクチン)を使用します。

症状に応じて、12mgまで投与し、症状が持続すれば2時間おきに2mgずつ増量します18)。

最高用量は24mg/日程度まで使用されます1)。

安定後は8時間ごとに6mgの維持投与を行います17)。

第1世代抗精神病薬のクロルプロマジン(医薬品名:コントミン)の有効性も報告されています19)。

不安・焦燥やミオクローヌスに対しては、クロナゼパムジアゼパムが有効で使用されます1)。

悪性症候群の治療薬であるダントロレン(医薬品名:ダントリウム)のセロトニン症候群への有効性は不明ながら、鑑別困難な場合はセロトニン症候群を悪化させることはないため、使用が検討されるとされています1)。

セロトニン症候群を発症後のうつ病治療では、シプロヘプタジンから合成され、抗セロトニン作用を有するミアンセリン(医薬品名:テトラミド)、ミアンセリンから開発された、同じく抗セロトニン作用を有するセチプチリン(医薬品名:テシプール)が選択肢となります。

ラットをモデルにした研究では、セロトニン症候群の症状がミアンセリンで改善されたことが報告されています20)。

またノルアドレナリン再取り込み阻害薬として作用し、セロトニンへはほとんど影響しないマプロチリン(医薬品名:ルジオミール)も選択肢となります。

参考

  • 1) 厚生労働省. 重篤副作用疾患別対応マニュアル セロトニン症候群. 平成22年3月(令和3年4月改定).
  • 2) Abadie D, et al. : Serotonin Syndrome: Analysis of Cases Registered in the French Pharmacovigilance Database. J Clin Psychopharmacol, 35 : 382-8, 2015.
  • 3) Perry PJ, Wilborn CA. : Serotonin syndrome vs neuroleptic malignant syndrome: a contrast of causes, diagnoses, and management. Ann Clin Psychiatry, 24 : 155-62, 2012.
  • 4) Nguyen CT, et al. : Epidemiology and Economic Burden of Serotonin Syndrome With Concomitant Use of Serotonergic Agents: A Retrospective Study Utilizing Two Large US Claims Databases. Prim Care Companion CNS Disord, 19 : 17m02200, 2017.
  • 5) Raffa RB, et al. : Complementary and synergistic antinociceptive interaction between the enantiomers of tramadol. J Pharmacol Exp Ther, 267 : 331-40, 1993.
  • 6) Hassamal S, et al. : Tramadol: Understanding the Risk of Serotonin Syndrome and Seizures. Am J Med, 131 : 1382, 2018.
  • 7) Lawrence KR, et al. : Serotonin toxicity associated with the use of linezolid: a review of postmarketing data. Clin Infect Dis, 42 : 1578-83, 2006.
  • 8) Shouan A, et al. : Linezolid-induced serotonin syndrome. Ind Psychiatry J, 29 : 345-348, 2020.
  • 9) Grahame-Smith DG, Green AR. : The role of brain 5-hydroxytryptamine in the hyperactivity produced in rats by lithium and monoamine oxidase inhibition. Br J Pharmacol, 52 : 19-26, 1974.
  • 10) Treiser SL, et al. : Lithium increases serotonin release and decreases serotonin receptors in the hippocampus. Science, 213 : 1529-31, 1981.
  • 11) Goodwin GM, et al. : The enhancement by lithium of the 5-HT1A mediated serotonin syndrome produced by 8-OH-DPAT in the rat: evidence for a post-synaptic mechanism. Psychopharmacology (Berl), 90 : 488-93, 1986.
  • 12) Rickli A, et al. : Opioid-induced inhibition of the human 5-HT and noradrenaline transporters in vitro: link to clinical reports of serotonin syndrome. Br J Pharmacol, 175 : 532-543, 2018.
  • 13) Taylor CP, et al. : Pharmacology of dextromethorphan: Relevance to dextromethorphan/quinidine (Nuedexta®) clinical use. Pharmacol Ther, 164 : 170-82, 2016.
  • 14) Gatti M, et al. : Serotonin syndrome by drug interactions with linezolid: clues from pharmacovigilance-pharmacokinetic/pharmacodynamic analysis. Eur J Clin Pharmacol, 77 : 233-239, 2021.
  • 15) Orlova Y, et al. : Association of Coprescription of Triptan Antimigraine Drugs and Selective Serotonin Reuptake Inhibitor or Selective Norepinephrine Reuptake Inhibitor Antidepressants With Serotonin Syndrome. JAMA Neurol, 75 : 566-572, 2018.
  • 16) Scotton WJ, et al. : Serotonin Syndrome: Pathophysiology, Clinical Features, Management, and Potential Future Directions. Int J Tryptophan Res, 12 : 1178646919873925, 2019.
  • 17) Poian LR, Chiavegatto S. : Serotonin Syndrome: The Role of Pharmacology in Understanding Its Occurrence. Cureus, 15 : e38897, 2023.
  • 18) Wang RZ, et al. : Serotonin syndrome: Preventing, recognizing, and treating it. Cleve Clin J Med, 83 : 810-817, 2016.
  • 19) Gillman PK. : The serotonin syndrome and its treatment. J Psychopharmacol, 13 : 100-9, 1999.
  • 20) Van Oekelen D, et al. : Role of 5-HT(2) receptors in the tryptamine-induced 5-HT syndrome in rats. Behav Pharmacol, 13 : 313-8, 2002.

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執筆者:高津心音メンタルクリニック 院長 宮本浩司

  • 精神保健指定医
  • 日本精神神経学会認定専門医・指導医

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