高津心音メンタルクリニック|心療内科・精神科 川崎市 溝の口

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バルプロ酸(デパケン、デパケンR、バレ
リン、セレニカR)の特徴・作用・副作用

公開日 2023.6.19

作用・特徴

バルプロ酸はてんかん発作、躁状態・イライラ感、片頭痛発作を抑制する効果がある薬です。

先発医薬品としてデパケン、デパケンR、バレリン、セレニカRがあります。

1882年にBurtonにより合成され、1963年にMeunierにより、抗てんかん作用があることが発見され、抗てんかんや薬として使用されるようになりました。

その後、双極性障害の躁状態に有効であることがわかり、双極性障害の治療にも使用されるようになりました。

さらに、片頭痛の発症頻度の抑制に効果があることがわかり、片頭痛の治療にも使用されています。

バルプロ酸は抑制系神経伝達物質のGABAの濃度を上昇させることにより、てんかん・躁状態・片頭痛の改善に関与するとされています。

近年、HDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)阻害作用が双極性障害の治療効果に関与していることが報告されています1)、(図1)。

図1 バルプロ酸の作用機序

バルプロ酸の作用機序

剤型(図2)

先発医薬品のデパケンは錠剤が100mg錠と200mg錠があります。

細粒とシロップもあります。

徐放錠のデパケンRは錠剤が100mg錠と200mg錠があります。

先発医薬品のバレリンは錠剤が100mg錠と200mg錠があります。

シロップもあります。

先発医薬品のセレニカRは錠剤が200mg錠と400mg錠があります。

顆粒もあります。

図2 バルプロ酸の各先発医薬品の剤型(錠剤)

バルプロ酸の各先発医薬品の剤型(錠剤)

デパケンR、セレニカRは膜でコーティングされた徐放剤となっています。

消化管内でゆるやかにバルプロ酸が放出されます(図3)。

排便時にコーティングの白い膜(通称“ゴーストピル”)が便と一緒に排泄されることがありますが、問題ありません。

図3 バルプロ酸徐放剤の構造

バルプロ酸徐放剤の構造

デパケンシロップは赤色透明で甘みがあります。

バレリンシロップ無色で甘みがあります(図4)。

図4 デパケンシロップとバレリンシロップ

デパケンシロップとバレリンシロップ

効能・効果

効能・効果は以下となっています。

新規発症てんかんでは、ガイドラインでは強直間代発作・間代発作、欠神発作、ミオクロニー発作、強直発作・脱力発作で第一選択となっています2)、(図5)。

図5 新規発症てんかんにおけるバルプロ酸の選択

新規発症てんかんにおけるバルプロ酸の選択

双極性障害躁状態(躁病エピソード)では気分安定薬と抗精神病薬との併用が推奨され、気分安定薬はバルプロ酸と炭酸リチウムが推奨されています3)、(図6)。

図6 双極性障害躁状態(躁病エピソード)におけるバルプロ酸の位置づけ

双極性障害躁状態(躁病エピソード)におけるバルプロ酸の位置づけ

片頭痛の予防療法では、ガイドラインではグループ1(有効)に位置づけられています4)、(図7)。

図7 片頭痛予防療法におけるバルプロ酸の有効性

片頭痛予防療法におけるバルプロ酸の有効性

2023年5月に発表されたLamplらの比較解析では、抗CGRP抗体につぐ有効性が示されています5)、(図8)。

図8 片頭痛予防療法における予防薬の有効性の比較

片頭痛予防療法における予防薬の有効性の比較

用法・用量

デパケン・バレリン

デパケン・バレリンの用法・用量は、各種てんかんおよびてんかんに伴う性格行動障害の治療、躁病および躁うつ病の躁状態の治療では、通常1日量400~1,200mgを1日2~3回に分けて内服します。

ただし、年齢・症状に応じ適宜増減します。

シロップでは、通常1日量8~24mL(バルプロ酸ナトリウムとして400~1,200mg)を1日2~3回に分けて内服します。

ただし、年齢・症状に応じ適宜増減します。

片頭痛発作の発症抑制では、通常1日量400~800mgを1日2~3回に分けて内服します。

なお、年齢・症状に応じ適宜増減しますが、1日量として1,000mgを超えないこととなっています。

シロップでは、通常1日量8~16mL(バルプロ酸ナトリウムとして400~800mg)を1日2~3回に分けて内服します。

なお、年齢・症状に応じ適宜増減しますが、1日量として20mL(バルプロ酸ナトリウムとして1,000mg)を超えないこととなっています。

デパケンR

デパケンRの用法・用量は各種てんかんおよびてんかんに伴う性格行動障害の治療、躁病および躁うつ病の躁状態の治療では、通常1日量400~1,200mgを1日1~2回に分けて内服します。

ただし、年齢・症状に応じ適宜増減します。

片頭痛発作の発症抑制では、通常1日量400~800mgを1日1~2回に分けて内服します。

なお、年齢・症状に応じ適宜増減しますが、1日量として1,000mg を超えないこととなっています。

セレニカR

セレニカRの用法・用量は、各種てんかんおよびてんかんに伴う性格行動障害の治療、躁病および躁うつ病の躁状態の治療では、通常、400~1200mgを1日1回内服します。

ただし、年齢、症状に応じ適宜増減します。

片頭痛発作の発症抑制では、通常、400~800mgを1日1回内服します。

なお、年齢、症状に応じ適宜増減しますが、1日量として1000mgを超えないこととなっています。

てんかん発作抑制では血中濃度50~100μg/mLの範囲内が推奨されています6)。

双極性障害躁状態(躁病エピソード)では、94μg/mL以上が有効とされています7)。

双極性障害維持療法では、50~74μg/mLが有効とされています8)。

片頭痛予防療法では、21~50μg/mLの範囲内が推奨されています4)。

薬物動態

各先発医薬品の空腹時における最高濃度到達時間(Tmax)と半減期(T1/2)は以下となっています(図9、10)。

図9 バルプロ酸(先発医薬品)単回内服時の最高血中濃度到達時間と半減期

バルプロ酸(先発医薬品)単回内服時の最高血中濃度到達時間と半減期

図10 デパケン・デパケンRとバレリン・セレニカR細粒単回内服時の血中濃度の推移

デパケン・デパケンRとバレリン・セレニカR細粒単回内服時の血中濃度の推移

毎日徐放剤のデパケンRとセレニカRを内服した場合、デパケンRでは約9.4時間で最高血中濃度に達し、セレニカRでは約15.8時間で最高血中濃度に達します。

両剤を24時間内で比較した場合、血中濃度が安定している状態で、測定開始時と24時間目では、セレニカRがデパケンRより血中濃度が高く、8時間目ではセレニカRよりデパケンRの方が血中濃度が高い結果でした9)、(図11)。

図11 デパケンRとセレニカRの血中濃度の推移

デパケンRとセレニカRの血中濃度の推移

両剤の比較で精神症状に差はありませんでした。

副作用

デパケンRの副作用調査では、承認時まで及び承認後の副作用調査症例3,919例中254例(6.5%)に副作用発現を認め、主なものは以下でした。

高アンモニア血症と血小板減少のリスクに注意を要し、血小板減少はバルプロ酸の血中濃度の高さとともにリスクが増加することが報告されています10)。

長期的なバルプロ酸の内服は血中ビタミンD濃度の低下と骨密度低下と関連していることが報告されています11)、12)。

また、双極性障害患者さんのバルプロ酸、カルバマゼピン(テグレトール)内服は、認知機能への影響が指摘されています13)、14)。

そのため、片頭痛やてんかんなどの併存がある場合は選択肢となりますが、炭酸リチウムが使用できる場合は、認知機能保護作用を有する炭酸リチウムが選択されます。

女性では多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のリスクが増加することが報告されています15)。

妊娠中の内服では二分脊椎をはじめとした奇形が生じやすいことが報告されています16)。

また、出産後の児の認知機能発達に影響を与えるリスクが示されています17)。

おわりに

バルプロ酸がてんかん・双極性障害・片頭痛の3つの疾患に有効性を示し、保険承認を得た過程は一見バラバラの疾患に偶然に効能が得られていったようにも見受けられます。

現在、疫学研究では双極性障害患者には片頭痛を併せ持つ患者さんが多く18)、19)、また、てんかん・双極性障害・片頭痛には共通の病理学的メカニズムが基底にあることが研究でわかってきています20)~22)。

偶然にみえたバルプロ酸の薬理効果の発見は、生物学的病態に伴う必然の帰結だったといえるのかもしれません。

文献

執筆者:
高津心音メンタルクリニック
院長 宮本浩司

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