公開日 2025.6.2
開発経緯・特徴
米国で2024年9月、統合失調症の新薬cobenfy(コベンフィー:旧称KarXT)が承認されました。
日本では未承認です。
現在、世界で承認されている統合失調症の薬の中では一番新しい薬になります。
Cobenfyは統合失調症の陽性症状、陰性症状の改善ととともに認知機能の改善効果も認められています。
医薬成分はムスカリンM1、M4受容体阻害作用を有するキサノメリンと末梢性ムスカリン受容体阻害作用を有するトロスピウムの合剤となっています(図1)。
図1 cobenfyの構成薬剤
統合失調症の治療薬は長い間、ドパミン仮説に基づきドパミンをターゲットした治療薬が開発され、用いられていました。
一方で以前から、ムスカリン性アセチルコリンの関与も報告されていました1)。
精神病に関与する脳の領域ではムスカリンM1、M4受容体が多く発現していることが報告されています2)(図2)
図2 精神病に関与する脳の領域でのムスカリンM1・M4受容体の分布
一方で、統合失調症当事者の脳では、これらの領域のムスカリンM1、M4受容体の減少がみられると報告されています3)、(図3)。
図3 統合失調症当事者の死後脳におけるムスカリン受容体の発現の健常者との比較
また、動物モデルでは、ムスカリンM1、M4受容体を阻害すると精神病様の行動が発現することが確認されています4)。
このような中でアルツハイマー型認知症当事者がキサノメリンを内服したところ、精神症状が改善することがわかりました5)
キサノメリンはM1、M4受容体への親和性が高い特性があります6)、(図4)。
図4 キサノメリンのドパミン受容体・ムスカリン受容体への親和性
そのため、脳のムスカリンM1、M4受容体だけでなく、末梢(体)のムスカリンM1、M4受容体も作動させてしまうため、嘔気、下痢といった副作用が生じてしまうことになりました。
そのため、キサノメリンの末梢のムスカリンM1、M4受容体作動作用を打ち消すために、末梢性ムスカリン受容体阻害作用を有するトロスピウムが併用されることになりました(図5)。
図5 Cobenfy:キサノメリンとトロスピウム
作用機序
Cobenfyの陽性症状の改善には、前頭前野でのムスカリンM1受容体の活性化が、GABAの放出を促進します。
その結果、グルタミン酸の伝達を抑制し、線条体でのドパミン放出を抑制すると考えられています
また、中脳のコリン作動性経路のムスカリンM4受容体の活性化することにより、線条体のドパミン放出が抑制されると考えられています4)、(図6)。
図6 cobenfyの作用機序
また、認知機能の保護作用は、前頭前野におけるムスカリンM1受容体の活性化がGABAニューロンを活性化し、GABAの放出を促進します。
その結果、大脳皮質における興奮系/抑制性のバランスを調整するとされています。
また、海馬におけるムスカリンM4受容体の活性化が、過剰なグルタミン酸の放出を抑制し、海馬の興奮系/抑制性の不均衡を調整することされています4)。
効果
第3相試験における二重盲検化プラセボ対照試験(EMARGENT-2)では、投与5週後にプラセボと比較して、統合失調症症状が大きく改善する結果でした(PANSS合計スコアが9.6ポイント減少)7)、(図7)。
図7 cobenfy(KarXT)の第3相試験(EMARGENT-2)の結果
第2相試験のEMARGENT-1と2つの第3相試験のEMARGENT-2・3試験のプール解析では、PANSSトータルスコアは2週目からプラセボと差がつく結果でした8)、(図8)
図8 cobenfyの第2・3相試験のプール解析
剤型
剤型は50mg/20mgカプセル、100mg/20mgカプセル、125mg/30mgカプセルがあります(図9)。
図9 cobenfyの剤型
薬物代謝
Cobenfyは内服後、約2.5時間後に最高血中濃度に達し、約5時間後に血中濃度が半減します6)。
副作用
2つの第3相試験の結果による2%以上の副作用は以下でした(図10)。
- 悪心(19%)
- 消化不良(18%)
- 便秘(17%)
- 嘔吐(15%)
- 高血圧(11%)
- 腹痛(8%)
- 下痢(6%)
- 頻脈(6%)
- めまい(5%)
- 胃食道逆流症(5%)
- 口渇(4%)
- 傾眠(3%)
- 視覚のかすみ(3%)
- 唾液分泌過多(2%)
- 起立性低血圧(2%)
- 咳(2%)
- 錐体外路症状(EPS)、アカシジアを除く(2%)
図10 cobenfyの主な副作用
文献
- 1) Scarr E, Dean B.: Muscarinic receptors: do they have a role in the pathology and treatment of schizophrenia? J Neurochem, 107: 1188-95, 2008.
- 2) Yohn SE, et al.: Muscarinic acetylcholine receptors for psychotic disorders: bench-side to clinic. Trends Pharmacol Sci, 43: 1098-1112, 2022.
- 3) Saint-Georges Z, et al.: Cholinergic system in schizophrenia: A systematic review and meta-analysis. Mol Psychiatry, 2025.
- 4) Meyer JM, et al.: From theory to therapy: unlocking the potential of muscarinic receptor activation in schizophrenia with the dual M1/M4 muscarinic receptor agonist xanomeline and trospium chloride and insights from clinical trials. Int J Neuropsychopharmacol, 28: pyaf015, 2025.
- 5) Bodick NC, et al.: Effects of xanomeline, a selective muscarinic receptor agonist, on cognitive function and behavioral symptoms in Alzheimer disease. Arch Neurol, 54: 465-73, 1997.
- 6) Lobo MC, et al.: New and emerging treatments for schizophrenia: a narrative review of their pharmacology, efficacy and side effect profile relative to established antipsychotics. Neurosci Biobehav Rev, 132:324-361, 2022.
- 7) Kaul I, et al.: Efficacy and safety of the muscarinic receptor agonist KarXT (xanomeline-trospium) in schizophrenia (EMERGENT-2) in the USA: results from a randomised, double-blind, placebo-controlled, flexible-dose phase 3 trial. Lancet, 403: 160-170, 2024.
- 8) Kaul I, et al.: Efficacy of xanomeline and trospium chloride in schizophrenia: pooled results from three 5-week, randomized, double-blind, placebo-controlled, EMERGENT trials. Schizophrenia (Heidelb), 10: 102, 2024.
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